(※写真はイメージです/PIXTA)

「家賃滞納は普通の人が堕ちる破滅への入り口である。」……2500件以上の家賃滞納トラブルを解決してきた、OAG司法書士法人代表の太田垣章子氏。同氏は書籍『家賃滞納という貧困』(ポプラ社)のなかで、その悲惨な実態を明かしている。

一人暮らしの20歳「貧困の親」に助けを求められず…

多くの家賃滞納者の背後には、家族関係の希薄さが見え隠れします。

 

20歳を過ぎたばかりの家賃滞納者の親御さんから、「本人は14歳から家出しているので自分には関係ない」と言われたこともあります。物件の場所を教えるのでぜひ本人に会いに行って欲しいとお願いすると、「今さら会って何を話すのか」とガシャンと電話を切られてしまいました。

 

もちろん発せられる言葉のすべてが、真実とは限りませんし、責任を追求されたくなくて、わざとそういう言い方をしている可能性もあります。それでも、日々業務の中で親子関係の冷たさを感じることは、非常に多いのです。

 

忘れられないのは、大阪の生野区にある部屋の家賃を滞納し続けた20歳の男性のケースです。本人とまったく連絡が取れなくなったため、四国に住む親御さんに連絡すると、「2、3年連絡を取り合っていないが、便りがないのは良い知らせ」だと言い切り、まったく関わろうとしないのです。

 

しかしその若者は、部屋の中で餓死していました。

 

慣れない土地で思うような生活ができず、友達もおらず、そして親にも助けを求められずに力尽きた、そんな残酷な結果だったかもしれません。

 

その後、警察から連絡を受けた父親は、「金がないから大阪になんて行けない。好きに処理してくれ」と、息子の亡骸の引き取りに行くことすら渋っていました。さすがに最後は説得されて、夜行バスでなんとか来てはくれましたが、息子の亡骸を前にしてもなお、お金がかかってしまうことを最後まで愚痴っていました。

 

人が頑張れる原動力は、誰かから「愛されている、必要とされている」という揺るぎない基盤ではないでしょうか。そこが欠けていると、前を向く力を生み出せないこともあるように感じてしまいます。もしかしたら亡くなったこの若者には、その基盤が欠落していたのかもしれません。

 

この若者のケースでは、親世帯も経済的に困窮していました。それがわかっていたから助けを求められなかったのかもしれません。親のほうも、貧困が原因で心の余裕がなかったのかもしれません。ただ、たとえそうだとしても、20歳そこそこの若者が部屋の中で餓死に至るまで「助けを求められなかった」という状況に、衝撃を受けずにはいられませんでした。

 

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家賃滞納という貧困

家賃滞納という貧困

太田垣 章子

ポプラ社

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