「家賃滞納は普通の人が堕ちる破滅への入り口である。」……2500件以上の家賃滞納トラブルを解決してきた、OAG司法書士法人代表の太田垣章子氏。同氏は書籍『家賃滞納という貧困』(ポプラ社)のなかで、その悲惨な実態を明かしている。
メガバンクで働いていた女性…人生を謳歌していたが
本田美子さんは、83歳。大手メガバンクを定年まで勤め上げ、年に何回か海外旅行をするくらい、人生を謳歌されていました。
自身は公営住宅に住み、少し離れたところにワンルームも借りていました。このワンルーム、何のためかというと、荷物を置くためです。もともとこのワンルームに住み、公営住宅に引越すときに解約せず、どうやら相続で受けた物とかをそのまま置いていたようです。
年を重ねると元気であっても、根気のいる作業は後回しになります。特に物を大切にする世代は、なかなか断捨離ができず、気がついたときには物で溢れてしまうということになりかねません。美子さんもこのタイプだったのでしょう。
毎月のワンルームの家賃は、美子さんが不動産会社に持参されていました。住んでいる町から電車に乗って3駅。振込みをお願いしても、わざわざ毎月来られます。不動産会社の方も、美子さんの様子を確認できるので、安心していました。
必ず月末には持ってこられる家賃。ところがこの1年ほど遅れたり、2カ月分まとめて払ったり、様子が変わってきました。会うたびに「年をとられたな」そう感じるほど、老いてこられた様子が窺えました。帰られる後ろ姿が、以前とはずいぶん違います。歩くペースが遅かったり、ふらふらしていたり。
そうして美子さんは、姿を見せなくなりました。
司法書士、賃貸不動産経営管理士、合同会社あなたの隣り代表社員
司法書士、賃貸不動産経営管理士、合同会社あなたの隣り代表社員。30歳で生後6か月の長男を抱えて離婚、働きながら6年の勉強を経て2001年に司法書士試験合格。2006年に独立、2012年に事務所を東京へ移転し、2024年5月よりコンサルティングと情報発信を軸に現職へ。家主側の訴訟代理人として家賃滞納の明け渡し手続きを延べ3,000件近く担当し、現場重視で滞納者の再出発にも伴走する“賃貸トラブル解決のパイオニア”として知られる。「住まいは生きる基盤」を掲げ、“人生100年時代における家族に頼らないおひとりさまの終活”を提言。全国賃貸住宅新聞での長期連載をはじめ、現代ビジネスなど各種媒体に寄稿し、年間60回超・累計700回超の講演で実務と制度の接点をわかりやすく伝えている。著書に『家賃滞納という貧困』、『老後に住める家がない!』、『不動産大異変』、『あなたが独りで倒れて困ること30』(すべてポプラ社)、『死に方のダンドリ』(共著、ポプラ社)などがある。
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