住民の高齢化と建物の老朽化という「二つの老い」がマンションを直撃しています。しかし、そんななかでも鎌倉の老朽マンションが「楽園」に変わった事例を、作家の山岡淳一郎氏の『生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて』(岩波新書)より一部を編集・抜粋して解説します。

築後100年は持つマンション…特徴は?

その一例が、建物の強さです。小町マンションは、すこぶる頑丈でした。これは竣工した年代と関係があります。東京都渋谷区神宮前に高級マンションの草分けといわれる「コープオリンピア」が建てられたのは1965年。小町マンションの完成は、その5年後です。

 

住宅金融公庫(現・住宅金融支援機構)の高層分譲住宅購入資金融資がスタートし、地価公示の制度が始まったころでした。

 

マンションの大衆化路線に火がついた時期ですが、供給戸数は年間10万戸程度と少なく、大手建設会社は威信をかけて新タイプのマンション建設に力を注いでいました。強固な地盤の上に頑強な軀体を建てます。

 

多くの鉄骨、鉄筋と質のいいコンクリートを使い、鉄筋を覆うコンクリートの厚さ(かぶり厚)も十分にとってあります。その後のマンションブームの突貫工事で建てられたマンションよりも、よほど強くできていたのです。

 

小町マンションは新耐震基準(1981年制定)に満たなかったので、95年の阪神・淡路大震災後、耐震補強をします。そのときに建物の強さが判明しました。

 

「軀体コンクリートのコア抜きをして専門機関に分析してもらうと、新品のように強い、しっかりしていると評価されました。と言っても耐震の基準は基準ですから1階に鉄骨の筋交(すじか)いを設けた。その上からデザイン的な処理をして筋交いに見えないよう耐震補強したんです。東日本大震災の後、建物の一部にクラック(亀裂)が見つかったので、その住戸の持ち主が内装を取り去ってスケルトン(軀体)にして改修するのに合わせて補修しました。今後50年、築後100年は持ちます。そこを目標に維持管理の計画を立てています」と、中津さんは語ります。

 

100年マンションへの道は、2001年、二度目の大規模修繕を機に開けました。建物の品質、財務の両面で100年寿命が射程に入ります。適正な価格での修繕行程がほぼ確立できたのです。

 

一般的に大規模修繕の発注方式は、コンサルタントによる「設計監理」、施工業者にすべて任せる「責任施工」、管理組合に補助者(コンストラクション・マネージャー)が付いて工事業者に分離発注する「コンストラクション・マネジメント(CM)」の3つに大別できます。それぞれ良し悪しがありますが、小町マンションが選んだのはCMをアレンジした形でした。

 

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生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて

生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて

山岡 淳一郎

岩波書店

建物の欠陥、修繕積立金をめぐるトラブル、維持管理ノウハウのないタワマン……。さまざまな課題がとりまくなか、住民の高齢化と建物の老朽化という「二つの老い」がマンションを直撃している。廃墟化したマンションが出現する…

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