住民の高齢化と建物の老朽化という「二つの老い」がマンションを直撃しています。そのなかで、空室がスラム化につながってしまった事例を、作家の山岡淳一郎氏の『生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて』(岩波新書)より一部を編集・抜粋して解説します。

銃弾、不審火、変死体…マンションのスラム化

神奈川県横浜市、横浜中華街の近くに「お化けマンション」と呼ばれる、九階建てのマンションが建っています。周辺の住環境は良好で、立地は申し分ないのにスラム化に歯止めがかかりません。

 

荒廃の発端は元地主の管理組合理事長の「マンション私物化」でした。マンションの竣工は一九七三年。土地を所有していた地主が開発業者と「等価交換」で建設しました。等価交換とは、地主が土地を、開発業者が建設資金を出し、建物の完成後に土地と建物の出資比率に応じてフロアを取得する方式です。

 

地主は、マンションの最上階の全室を所有し、管理組合の理事長に就きました。ここは自分の城だとばかり、理事長の椅子に座ったのですが、維持管理に関心を払いませんでした。

 

管理組合は形骸化し、マンション管理のルール、「管理規約」すら作成されません。建物を良好に保つための大規模修繕も行われず、荒(すさ)んでいきます。そこに住民の無関心が重なって、取り返しのつかない泥沼にはまりました。

 

数年前、住民たちが気づいたときには、管理費も修繕積立金も一円も残っていませんでした。管理事務を任せていた理事が、こっそり使い込んでいたのです。財務を立て直すのは至難の業です。住民は、大急ぎで管理費、積立金の徴収に取り掛かります。

 

(写真はイメージです/PIXTA)
(写真はイメージです/PIXTA)

 

高齢世帯が多く、値上げした管理費が集まりません。滞納が続出し、管理不能の状態に陥ったのでした。竣工当時からここで暮らしている八〇代の女性は、「(外壁に)ひびが入って今にもコンクリートがポロポロ落ちてきそうなところがいっぱいあるんです」(『AREA』二〇一七年五月二九日号、カッコ内は筆者)と不安を洩らしています。

 

本来、鉄筋コンクリート(RC)造の建物は、四〇年や五〇年で寿命が尽きるものではありません。国税庁はRC造の耐用年数を四七年としていますが、これは会計上の減価償却の対象となる期間であり、物理的寿命とは別物です。

 

RC造は四七年経過すると会計上の建物の価値はゼロになります。しかし建築の専門家の間では、「RC造は通常六〇〜七〇年、補修して良い状態を保てば一〇〇年は大丈夫」といわれています。

 

管理不能に陥らなければ、建物は一世紀の風雪に耐えられます。デリケートなのは、設備、とくに上下水道や電気・ガスの配管です。配管の寿命は三〇年程度ともいわれています。古いマンションでは給排水管がコンクリートの柱や床に埋め込まれていて、交換に大掛かりな工事が必要なケースもあります。

 

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生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて

生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて

山岡 淳一郎

岩波書店

建物の欠陥、修繕積立金をめぐるトラブル、維持管理ノウハウのないタワマン……。さまざまな課題がとりまくなか、住民の高齢化と建物の老朽化という「二つの老い」がマンションを直撃している。廃墟化したマンションが出現する…

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