いまの70代~90代には、戦中・戦後の記憶が色濃く残っており、とにかく物を無駄にしてはならない、貯蓄に励むべき…という価値観・行動パターンが染みついている方が多くいます。しかし、せっかく築き上げた資産も、柔軟な発想がなければ、適切な相続対策はとれません。古い価値観に固執する親世代が納得する相続対策はないのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

際限なく蓄財するだけで、資産管理に無関心な高齢親

これから相続を迎える高齢者層、70代、80代、90代の世代には、戦争を体験された方・戦後の物資のない時代を知っている方が多く、モノを大切にする価値観をお持ちです。コツコツと蓄財して産を残すことに価値を見出す一方、自身は贅沢をすることなく「子どもや孫のために財産を残す」のを何より重視されているのです。

 

 

それだけに「財産は残すものであり、自分が使うものではない」という価値観のもと、財産を動かすことに抵抗があるため、なかなか相続対策が立てられず、子世代がヤキモキするケースによく遭遇します。

 

堅実な親が子どものために築いてくれた財産も、親世代に任せっぱなしにしてしまうと、相続発生時に大きく減ってしまうリスクがあります。これに気がついた子ども世代は、親任せにすることなく、自ら専門家と相談して対策の方法を選択し、親やきょうだいに説明して理解を促しつつ対策を実行する、といった方も増えてきているのです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

都内の自宅でひとり暮らしの母、住み替え提案は拒否

【事例1】立地のいい自宅を持つ母親。子どもの自宅を処分し、小規模宅地の特例を活用

 

60代の近藤さんは、3人きょうだいの長男です。父親は10年近く前に他界して以降、80代の母親が都心の戸建て住宅で1人暮らしをしてきましたが、数ヵ月前に自宅で転倒し骨折。現在はリハビリ病院に入院中です。近くに住む長女が母親のサポートをしてくれています。

 

母親が高齢になってきたことや、相続税の改正があったことを受け、いよいよ母親の生前対策をしておかなければと考えた近藤さんは、筆者の事務所へ相談に来られました。

 

長男の立場にある近藤さんですが、結婚後、さいたま市にある配偶者の実家そばに自宅を購入したため、自分の両親とは同居しませんでした。長女は横浜市の資産家に嫁ぎ、配偶者の両親が建ててくれた自宅に暮らしています。次女はアメリカの大学に留学しましたが、卒業後は現地で就職し、同僚のアメリカ人と結婚。日本にはほとんど帰ってきません。

 

◆都心の自宅の評価が高い!

 

母親の財産内容は、自宅の土地(340m2)が2億4000円、建物1000万円、隣接する賃貸マンションの土地1億円、建物2500万円、預金2000万円、有価証券800万円、合計3億9300万円となりました。相続税の計算をすると8700万円と算出されました。

 

子の相続における課題は、下記の3点が挙げられます。

 

①自宅の立地がよく、土地の評価が高いため、相続税は8700万円と高額

②現在の金融資産は2800万円しかなく、納税できる現金が足りない

③自宅と賃貸マンションの建物はともに築30年以上で維持費がかかる

 

◆節税のために子どもが住み替えを決断

 

筆者が節税対策の方法をいくつか提案したところ、近藤さんは、80代の母親が自宅を売却して住み替えたり、賃貸マンションを建て替えたりするのは、あまりにもハードルが高いと判断。

 

そこで、母親の負担がなく節税効果が得られる方法として提案したのが、近藤さん夫婦が母親の自宅に同居し、小規模宅地等の特例を適用する方法です。そうすれば、1億8635万円に評価が下がり、相続税は2660万円まで下がりますので、相続税は払える範囲に収まります。

 

自宅を残したままの同居では特例が使えないため、近藤さんは自宅を売却し、家賃が入る区分マンションを購入しました。母親との同居は、母親自身からも、妹たちからも、願ってもないことだとして感謝され、同意が得られました。

 

これにより、節税もできるうえに家賃収入まで入るようになります。近藤さん夫婦のお子さんはすでに独立しているため、今回の住み替えを伴う節税対策へのハードルも、ぐっと下がったといえるでしょう。

 

◆対策のポイント

同居して小規模宅地等の特例を適用(敷地面積が330m2であるため、80%減)でき料にしておきます。子どもには自宅を残さず、売却して区分マンションを購入します(賃貸してもよい)。

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営80代するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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