子世代に迷惑をかけたくないという思いから、生活を切り詰め、納税のための現金を積み上げている親世代は少なくありません。しかし、相続税の節税という観点から考えると、その方法ではメリットが得にくく、注意が必要です。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

相続税を心配し、現預金を積み上げる高齢者は多いが…

相続コーディネーターとして多くの方の相談を受けてきましたが、親世代の方々は、子や孫に少しでも多く現金を残そうと、長年にわたって節約してコツコツと貯金を殖やし、何千万円も残してこられてきた方が多く、なかには億単位の現金を貯めてきた方もいるほどです。

 

そういった方々は口をそろえて「相続税がかかっても、これだけ現金があれば安心だ」と胸を張ります。

 

しかし、それほどまでに預金を積み上げても、生活費の足しになるほど利息がつくわけでもなく、いざ相続の段になれば、貯めてきた現金には相当な課税がされることになります。

 

 

資産も「預貯金」の状態だと、金融機関に預けてある残高がそのまま財産評価となり、被相続人が亡くなってしまえば1円も節税できません。節約を重ねて積み上げたせっかくの預貯金も、無策な状態でおいておけば、相続税の納税で減るばかりなのです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

老人ホームの費用は、想像するほど高くない

多くのシニアの方が預貯金を残しているのは、相続税の納税資金としてばかりでなく、「老後は子どもたちの世話にはならず、老人ホームに入るための入所金にしたい」と考えてのことも多いのです。高級な有料老人ホームに入ろうと思えば、数千万円もの利用権が必要なところもあります。

 

しかし最近では、老後の住まいの選択肢も増えてきました。たとえば、高齢者賃貸住宅であれば、入居する際に数百万円の保証金を払えばよく、数千万円ものまとまったお金は必要ありません。毎月の費用も、家賃・食費・管理費等20万円以内で収まりますから、老後の住まいのためにそこまで大きな金額を残しておく必要はないともいえます。

「親が認知症→後見人」という発想がはらむ危険性

生前の相続対策には、必ず「本人の決断」が必要になります。本人の意思決定があって初めて、預貯金の引き出し・解約、不動産の売却・購入・活用等を進めることができます。

 

いくら体は元気だとしても、意思能力が低下して「認知症」の診断を受けてしまうと、諸々の契約等ができなくなりますので、対策は早めの着手が必要です。

 

子世代の方のなかには、親が認知症になったら後見人を立てなければいけないと思いこみ、後先を考えずに手続きを進めてしまう方がいます。しかし、後見人は「財産の管理」が主な業務であり、相続税対策は「被後見人のためにならない」との立ち位置にいますから、ひとたび後見人を立てると、一切の節税策が実行できなくなります。また、後見人は被後見人の判断能力が戻るなどしない限り、原則、利用をやめることができません。従って、この制度の活用には熟慮が必要です。

 

認知症の症状は幅広く、また、医師の診察結果によっては遺言書作成など、対策を打てるケースも少なくありません。疑わしい場合は、本人の意思や希望や状態を見極めつつ、必要な対策を取っていくことが大切です。なにより、親族間に争いがないのであれば、慌てて後見人を立てる必要はないといえます。

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営80代するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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