いまの70代~90代には、戦中・戦後の記憶が色濃く残っており、とにかく物を無駄にしてはならない、貯蓄に励むべき…という価値観・行動パターンが染みついている方が多くいます。しかし、せっかく築き上げた資産も、柔軟な発想がなければ、適切な相続対策はとれません。古い価値観に固執する親世代が納得する相続対策はないのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

積み上がる現預金、のしかかる相続税に戦々恐々

【事例2】預金を下ろして区分マンションを購入した節税した

 

60代の霜田さんは、サラリーマン家庭で育ったひとりっ子です。20代で嫁いだ先は、実家から1時間ほど離れたエリアにあり、結婚して以降、ずっとそこで生活しています。娘を送り出した両親は、その後ずっと2人暮らしをしてきましたが、数年前に母親が亡くなり、以降は80代の父親がひとりで生活しています。

 

 

ある日、体調を崩した父親が病院で検査をしたところがんを宣告され、現在は治療のために入院中しています。空き家になった家の管理が大変になり、いずれ発生する相続のことも考えておきたいと、霜田さんは夫を伴って筆者のもとに相談に来られました。

 

父親が入院する際、預金通帳などを預かりましたが、思いのほかまとまった額があることを知り、高額な相続税がかかるのではと不安を感じています。

 

◆自宅を売却する決断はできず

 

父親の財産を確認したところ、自宅土地が1534万円、建物105万円、預金7000万円の、合計8639万円となりました。相続人は霜田さん1人のため、このままでは相続税は812万円かかると計算されました。

 

父親の自宅は狭く、社会人や学生の子ども3人と同居する霜田さん一家が同居することはできません。それならば、父親の家と霜田さん夫婦の家を両方とも売却し、二世帯住宅に住み替えてはどうかという提案をしましたが、入院中の父親に聞いてみたところ、自宅を売却する決断ができず、退院後はまた自宅に住み続けたいというのです。

 

◆預金を下ろして区分マンションに、さらに贈与も

 

そこで、父親の預金で区分マンションを購入し、不動産評価に替えてから、霜田さんに贈与する方法を選択しました。現預金2700万円で都心の区分マンションを購入することで、不動産評価は508万円と20%以下まで評価が下がり、小規模宅地等の特例も使えるようになります。これで相続税は355万円となり、半分以下に節税することができます。

 

不動産を贈与すれば贈与税はかかりますが、積み上がった現金への高額の課税は避けることができるほか、家賃も霜田さんに入るため、財産の前渡しにもなります。さらにもう一部屋購入すれば、さらに節税効果は高まるため、立地のよい物件が見つかり次第、購入して対策を進める方向で、霜田さん親子の意思確認はできています。

 

◆対策のポイント

預金はそのままにしていると高額な相続税が課税されるため、事前に区分マンションを購入し、賃貸して財産評価を下げておきます。資産を不動産に変えて評価を下げてから贈与することで、税の圧縮効果が期待できます。
 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営80代するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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