受験勉強における「考える力」とは何か
鳥集 今の子どもたちは、自ら戦術を考えるのは、非合理的であると考えている……。
和田 実際は、そんなことはないわけです。しかし、ネット社会の影響なのか、他人の考えに乗っかって答えを見つけるのが合理的で賢いやり方だと考える日本人が増えているようです。
先ほども言いましたが、受験勉強における「考える力」というのは、「この問題が解けなくても、どうやったら合格点を取れるのか」を、考える力なのです。これは、人生のあらゆる場面で有効になりますよ。
たとえば、今やっている嫌な仕事とどう折り合いをつけて向き合うかよりも、その嫌な仕事をしないでも生きていける方法を考える。たとえば、結婚相手や恋人がDVや不倫をする人、経済的にだらしない人だった場合、もう愛せないと思うのであれば、その相手の行為に一喜一憂するよりも、その嫌な相手と別れて生きる方法を考える。つまり、人生の大切な場面にこそ、近視眼的にならないということです。
精神科医になってわかったのですが、このような考え方ができている人はうつ病にはなりません。たとえなったとしても、重症化しないのです。
鳥集 つまり、思い詰めない生き方ができる人、ということですか。
和田 一言で言えば、そういうことです。物事を白か黒かで考えない。ダメなときに他のやり方を探そうとか、これがダメでも、ゴールまでの別の道を模索しようとか。そう思える人のほうが、受験も、うつ病の認知療法も上手くいきます。
鳥集 しかし今は、「合理的」という名のもとに、実は詰め込み型の勉強法をさせる進学塾が多い。それは、子どもたちの発想力までも奪ってしまうかもしれないですね。
和田 そうです。教師の言いなりになって詰め込み型の勉強しかしてこなかった子どもは、偏差値は高くとも、上から言われたことはできるけど自分では何も思いつかない大人になってしまう可能性が高いのです。会社が「右だ」と言えば右に動くことに、何の疑問も抱かない。
だけど今は、正規社員で就職しても一生を保障してくれる企業なんてないわけですよ。どんなに従順に働いていようが、不要になったら平気で切り捨てられるのが今の日本社会です。今回のコロナ禍で、身をもってそう感じた人も多いのではないでしょうか。
コロナ禍でなくとも、この人生100年時代に多くの大手企業では50代で第一線から捨てられてしまう。そこでようやく家庭を振り返れば、とっくにバラバラになっている。離婚を切り出されることもあるでしょう。会社にすべてを捧げていた人ほど、その後、どう生きればいいのかは誰からも教えてもらっていません。
仕事人間はリタイアすると、やることがなくなって、早く老いてしまい、認知症のリスクだって高くなります。だからこれからの時代は尚の事、子どものうちから人生に躓いたときの対応力をつけるような勉強法が必要なのです。
鳥集 うちの小学生の次男は、今、進学塾に通っています。算数のテストではたまにいい点を取るのですが、国語とか社会などはあまり点が取れずに困っています。勉強の様子を見ていると、苦手科目に関しては、そもそも興味を持てないようです。できる子に比べてまだ未熟で、「どうすれば点数が取れるのか」という考えにさえ至っていない感じです。
和田 でも、鳥集さんのお子さんは算数が得意なわけですよね。それでいいのではないでしょうか。親も教師も、受験を意識し過ぎて子どもの苦手科目の克服に力を注ぎがちですが、私はそういう教育方法は間違っていると思うようになりました。
仮に、現状で鳥集さんのお子さんが、中学受験を失敗したところで、「俺は数学だけは負けないぞ」という自信を我が子に持たせたほうが、大学受験のときには圧倒的に有利になりますよ。得意科目を伸ばさないで、中途半端に他の嫌な科目をやらされたことにより、行きたかった学校にも行けず中途半端な結果で終わったときが、本当の意味での受験の失敗です。
和田秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック院長 精神科医
鳥集徹著
ジャーナリスト