なぜ「東大医学部」はおとなしくなったのか?出身医師の危機感

東大医学部生がどんどんおとなしくなっているといいます。かつて東大医学部は学生運動の中心地とも言えるところでした。ところが今では、いくら教授が不祥事を行っても、まったく学生運動につながりません。出身医師の危機意識とは。精神科医の和田秀樹氏が『東大医学部』(ブックマン社)で明らかにします。

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東大理Ⅲは東大医学部ではない

私は長年、受験勉強法の通信教育をやるなどして、ずいぶん、東大生や東大医学部生を見てきましたが、東大医学部生がどんどんおとなしくなっているのにびっくりしています。かつて東大医学部は学生運動の中心地とも言えるところでした。ところが今では、いくら教授が不祥事を行っても、まったく学生運動につながりません。

 

鉄緑会のような予備校がうなるほどの量の宿題を出して、それについてきた人たちが多く入るようになった、つまり、塾の言いなりになって勉強してきたような人たちが入学者の主流になったことの悪影響なのではないかと私は思っています。

 

かつては勉強法を工夫し、教師に逆らって入るような受験生が多かったのに、上から言われたことを処理する能力は高いが、自分でやり方を工夫し、自己流を考えられる人が減ってきているということです。

 

さらに2018年度から入試面接が採用されるようになりました。

 

東大医学部の教授たちが、たった10分の面接で適性を判断するというのですから、これで落とされる受験生が可哀相でなりません。しかし多くの予備校は「東大医学部が求めている学生像に合った受験生であることを面接で示す」という対策を指示しています。要するに、さらに学生たちが教授に合わせることが求められてしまったのです。

 

教授に喧嘩を売りそうな受験生を優遇するハーバードなどアメリカの名門大学の入試面接とはまったく逆の方向性です。

 

これでは医学部の現状が変わるわけがないと私は心配しています。

 

医者になるという強い動機を持たず、勉強ができるから、偏差値がトップだから東大理Ⅲに入るので、医者にならず他の世界に進む学生が多くいるからというのも、この面接導入の言い訳になっているようです。

 

そもそも、東大理Ⅲというのは、東大医学部ではありません。

 

本来は教養学部で、しっかり勉強して、その上で進路を決めるという東大独自のシステムのはずです。東大に入ってから東大医学部の内実を知ったり、他に面白い研究分野があることや、もっと自由に研究ができる物理学科や数学科のような雰囲気を知ったりすることで、そちらに進路を変えても問題ないでしょう。あるいは、医学部に進んでから、閉鎖的、ヒエラルキー的なものが嫌になり、他に進路を変えるという選択肢もあっていいと思います。

 

スポーツのような世界でも、頂点を目指すことで全体のレベルが上がり、世界と競争ができるようになるのですから、受験の世界でも頂点があること自体は悪いこととは思えません。

 

でも、その人たちが必ずしも医者にならなくても、別の世界で優秀な研究者や優秀な経営者になるのなら、最終的に国のためになるのではないかと最近は考えるようになりました。権威にあぐらをかいている医学部の教授たちも、理科Ⅲ類に受かった学生の3割くらいが自分の指導を受けたくないという姿を示すことで、少しは危機感を覚えるかもしれません。

 

それに、たいした能力もないのに肩書だけが立派な教授に才能を潰されたり、あるいは教授の言うことが全部正しく、臨床より研究があるべき姿だなどと洗脳されて臨床も二流、研究も二流の医者になるくらいなら、別の世界で競争に勝ち抜いていくほうが、本人のためにも、国のためにもなることは明らかだと思います。

 

それを、医者にならない人がいる、医学に興味がない人がいる(これだって、自分たちがいい指導をすれば気が変わることは十分あり得るものです。現に私がそうでした)からといって、従順な人間を選ぶ入試面接を採用することで、素晴らしい才能をはじくということがあっていいとは思えません。

和田秀樹こころと体のクリニック院長
精神科医

1960 年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、国際医療福祉大学心理学科教授。川崎幸病院精神科顧問。和田秀樹こころと体のクリニック院長。「I&C キッズスクール」理事長。一橋大学経済学部非常勤講師。27 歳のときに執筆した『受験は要領』がベストセラーになり、緑鐵受験指導ゼミナール創業。主な著書に『自分が高齢になるということ』(新講社)、『年代別 医学的に正しい生き方』(講談社)、『孤独と上手につきあう9つの習慣』(だいわ文庫)、『「人生100年」老年格差』『70歳が老化の分かれ道』(詩想社)などがある。

著者紹介

ジャーナリスト

1966年兵庫県生まれ。同志社大学大学院修士課程修了(新聞学)。会社員、出版社勤務等を経て、2004年から医療問題を中心にジャーナリストとして活動。タミフル寄附金問題やインプラント使い回し疑惑等でスクープを発表してきた。2015年に著書『新薬の罠子宮頸がん、認知症…10兆円の闇』(文藝春秋)で、第4回日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞。他の著書に『がん検診を信じるな~「早期発見・早期治療」のウソ』(宝島社新書)、『医学部』(文春新書)など。

著者紹介

連載「東京大学医学部」偏差値トップの超エリートコースはいま

本連載は和田秀樹・鳥集徹著『東大医学部』(ブックマン社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

東大医学部

東大医学部

和田 秀樹 鳥集 徹

ブックマン社

灘高→東大理Ⅲ→東大医学部卒。それは、日本の偏差値トップの子どもだけが許された、誰もがうらやむ超・エリートコースである。しかし、東大医学部卒の医師が、名医や素晴らしい研究者となり、成功した人生を歩むとは限らない…

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