灘高→東大理Ⅲ→東大医学部卒。それは、日本の偏差値トップの子どもだけが許された、誰もがうらやむ超・エリートコースである。しかし、東大医学部卒の医師が、名医や素晴らしい研究者となり、成功した人生を歩むとは限らないのも事実。自らが灘高、東大医学部卒業した精神科医の和田秀樹氏と、医療問題を抉り続ける気鋭の医療ジャーナリストの鳥集徹氏が「東大医学部」について語る。本連載は和田秀樹・鳥集徹著『東大医学部』(ブックマン社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

自分で戦術を見つけ出す子は見当たらない

鳥集 東大理Ⅲの入試は、暗記数学が有効だったのですね。

 

和田 たとえば、渡邉聡明という、日本外科学会の第3代理事長も務めた、大腸がん・直腸がんのエキスパートだった人がいます。平成29年に亡くなってしまいましたが。

 

彼は東大の理Ⅰに2年間ほどいて、それから理Ⅲを受け直しているのです。そのときに、東大入試の数学が、実は解きやすい問題だとわかったといいます。つまり、線形代数などと違って、入試問題なら暗記数学でクリアできると彼も体得したのでしょう。数学で120点満点中100点を取れたなら、理Ⅲに合格できると確信して、チャレンジしたのだそうです。

 

私の場合は灘高にいたので、〈戦術的合格術〉を体得できたと考えていますが、独自でそういう戦術に気づいて理Ⅲに入ってくるような猛者もたまにいます。誰かからノウハウを教わるのではなく、勉強しているうちに気がついてしまう人です。そういう人は、本当の意味で頭がいい人だと思いますね。

 

鳥集 戦術を教わるのではなく、自分で戦術を編み出して実行できる子ですね。今現在、和田さんが経営されている緑鐡受験指導ゼミナール*で教えている生徒たちにも、戦術を自分で編み出して勉強している生徒はいますか?昔と比べネットの発展などで、勉強の仕方も大きく変わってきたと思うのですが。

 

緑鐡受験指導ゼミナール
有意義な受験勉強により、大学合格だけでなく、将来の思考力、現実検討能力、自己理解能力、計画作成力、学習持続能力など大人になってからの「頭のよさ」が身につくカリキュラムとノウハウの提供を行う通信教育。(1)過去問研究に基づく志望校への最短ルート提示、(2)頻繁なチェックテストによる状況に即応できる指導と課題の提示、(3)最難関受験を制した東大生による受験ノウハウの伝授、が特徴。

 

和田 自分で戦術を見つけ出す子は、今の時代はあまり見当たりません。一人だけ例外がいて、ハイレベルな予備校がない富山の学校から、私の通信教育を受講しながら戦術を編み出していって、東大理Ⅲにトップ合格しました。ただ、一般論から言うと、そもそもある時期から東大理Ⅲに入る子たちが変質したと思います。それに今、私のように〈戦術的〉に受験勉強を教えている塾はとても少ないですから。たいていの塾は山ほど宿題を出して、学生は先生の言うことだけを聞いて、死ぬほど勉強して、合格を掴み取る。理Ⅲに毎年30人くらい合格させていると誇る鉄緑会*もそのパターンです。

 

昨今、どの教科においても、「考えさせる問題」が以前よりは増えたとはいいますが、昔よりも、戦術を知らない子どもが増えているのは事実です。基礎学力を身につけた上で、自ら戦術を編み出して勉強することを「非合理」と考える子どもが多くなっているのかもしれません。もしくは、大人がそういう考えを植えつけているのか……。

 

それは私から言わせれば、頭のいいやり方ではありません。先生の言うことなんか適当に聞いておいて、授業も適当にサボって、勝手に勉強して……そんなふうに先生も知らない戦術に気がついて、東大に入ってくるような天才は、ほぼいなくなったのではないでしょうか。

 

鉄緑会
1983 年に創立された、中高6年一貫校の生徒を対象とした東京大学受験指導専門塾。鉄緑会の「鉄」は東大医学部の同窓会組織「鉄門倶楽部」の鉄、「緑」は東大法学部の同窓会組織「緑会」の緑から命名。講師陣も東大卒の専任講師を中心に、ほぼすべて東大生・東大卒業生のなかから厳選されている。和田秀樹はここの創設メンバーだったが、方針の違いから出ていくことになる。

 

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東大医学部

東大医学部

和田 秀樹 鳥集 徹

ブックマン社

灘高→東大理Ⅲ→東大医学部卒。それは、日本の偏差値トップの子どもだけが許された、誰もがうらやむ超・エリートコースである。しかし、東大医学部卒の医師が、名医や素晴らしい研究者となり、成功した人生を歩むとは限らない…

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