新型コロナ感染拡大によって全国各地で病床がひっ迫している。そうした混乱のなかで地域の医療機関が協力して新型コロナ患者の病床数の割り振りを取り組んでいる地域があるという。いかに急増する新型コロナ患者を限られた病院、病床のなかで対応していけばいいのか、その解決策はあるのか。現在、連載中の「『医師の働き方改革』仕事の流れを変えれば医師でも定時に帰宅できる」の著者の佐藤文彦氏が緊急レポートする。

「地域医療構想」に積極的に取り組んできた成果

実は、東京都以外にも、新型コロナ患者の病床数の割り振りを地域全体で取り組んでいる地域がある。

 

長野県の「松本医療圏」だ。スピードスケート金メダリストの小平奈緒選手が所属していることで有名になった相澤病院が中心となり、長野県松本市をはじめ、塩尻市や安曇野市など3市5村がある2次医療圏にある、9つの病院は新型コロナの患者数にあわせて必要な病床数を想定し、症状の重さや人工透析が必要かなど患者の状態にあわせて受け入れる患者数や役割を病院ごとに割り振っているという。

 

なぜ、このコロナ禍で「松本医療圏」だけが、このような速やかな対応が取れているのだろうか。それはコロナ発生以前から、「地域完結型医療」を推し進めてきた成果であると考えられる。この「地域完結型医療」を推し進めていくためには、日ごろから地域のさまざまな医療機関同士がコミュニケーションを取り、地域医療をどのようにしていくかを議論していく必要がある。このある種「面倒くさい」ことを地道に各病院長同士が話し合いを続けてきたからこそ、速やかに対応することができているといえる。

 

「松本医療圏」のほかに、「地域医療構想」の実現に向けて、コロナ以前から取り組み、実現してきた地域として、山形県酒田市の日本海総合病院等が中心となった「地域医療連携推進法人 日本海ヘルスケアネット」なども挙げられる。この法人は、最初に県立病院と酒田市立酒田病院が経営統合し、現在は山形県北庄内地域の3病院のほか、地区医師会、歯科医師会、薬剤師会の三師会、3つの社会福祉法人と1つの医療法人の計10法人が参加している。これほど多種多様な医療機関が日ごろからきちんと連絡を取ってくれていれば、地域住民としてこれほど安心なことはないだろう。

 

こうした「地域医療連携推進法人」は、厚生労働省が2017(平成29)年から取り組んでいる法令に基づいた施策である。「地域医療構想」の実現に向け、地域医療の中心を担う医療機関群が集まった法人でありながら、いまだに全国で20法人しか認定されていない。

 

ある意味、「面倒なことは後回しに」といったところで、日本中の多くの地域がずっと国の施策を後回しにし続けたことが、この突然起こった新型コロナのパンデミックによって、その地域の医療連携不足を露呈させてしまったともいえるだろう。

 

残念ながら、「地域完結型医療」や「地域医療構想」といった取り組みについて、まだ日本人の多くが知らないのが現状だろう。こうした大切な施策があること、その施策をすでに有効活用している地域が、この未曾有のコロナ禍において、地域住民が恩恵を受けているという事実についても、もっと広く紹介、報道されるべきであろう。

 

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地方の病院は「医師の働き方改革」で勝ち抜ける

地方の病院は「医師の働き方改革」で勝ち抜ける

佐藤 文彦

中央経済社

すべての病院で、「医師の働き方改革」は可能だという。 著者の医師は「医師の働き方改革」を「コーチング」というコミュニケーションの手法を用いながら、部下の医師と一緒に何度もディスカッションを行い、いろいろな施策を…

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