今やSEや銀行員も「働き方改革」の恩恵を受ける
産業医の仕事をしていて最近強く感じることは、2019年の「働き方改革」開始以来、大企業を筆頭に多くの一般企業において、驚くような速さで残業が激減していることです。ひと昔前、SEや銀行員といえば深夜の残業が続くハードな職種の代表でした。
しかし、私が勤務していた日本IBMでは、SEの残業時間が他の職種に比べて突出して多いということはありませんでした。
実際に、多くの大企業では軒並み大幅な残業削減がなされ、中小企業においてもすでに同様の波が本格的に訪れ始めております。そういった意味では、日本中から「残業」という概念そのものが一気になくなっていくのも夢ではありません。
そして、今や就職活動を行う学生やその親御さんたちが熱い眼差しを向けているのが、「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」の認定を受けている企業か否かということです。これらの認定を受けているか否かで、翌年の入社希望者数が驚くほど上下してしまいます。
<経済産業省「健康経営銘柄2020」に40社を選定しました>
https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200302002/20200302002.html
<経済産業省 健康経営優良法人認定制度>
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html
ご覧になるとおわかりの通り、「健康経営銘柄」は、年に1度、30の業種から基本的にはたった1社しか選ばれません。
以前、小売業の部門で複数回「健康経営銘柄」を取得されている企業の専属産業医の先生にお話を伺ったところ、「小売業」部門にエントリーしてくる大企業は、毎年およそ120社以上にものぼるとのこと。この120社は、いわば健康経営に自信のある企業ばかりで、そんな中で何度も選出される企業というのは、「超スペシャルな健康経営企業」という存在なのです。
ちなみに、この企業では全社員の残業時間の平均が月8時間程度とのことでした。驚異的な数字です。
このように抜本的に社会風土や世論が変わっていった事例を、日本社会の中で捜してみると、我々がイメージしやすいのは「禁煙対策」ではないでしょうか。
昭和の時代には当たり前のように、オフィス内だけでなく学校の職員室や医局内でもタバコが吸われていました。しかし今日、そんな光景は全く消え、昭和を知らない若い人たちからすればそんなことがあったこと自体信じられないかもしれません。
喫煙を取り巻く環境変化と同様のことが、「残業時間削減」についても驚くほど急ピッチで起きていると私自身は捉えています。
2024年に「医師の働き方改革」がスタートすれば、医師たちの残業も激減していくことは間違いありません。万が一、2024年に実現できなければ「働く環境も重要視する」優秀な若者たちが医学部を目指さなくなり、結果的には、2024年より遅れて「医師の働き方改革」が行われることになっていくでしょう。
つまり、遅かれ早かれ結果的に「医師の働き方改革」はいつか必ず断行されるのです。
そうであるならば、先手必勝。いかに早くから「医師の働き方改革」に取り組むことができるかが、自分たちの病院の命運を大きく左右することになっていきます。