安易な罰則の前に取り組むべき課題が山積
私事で恐縮だが、昨年夏、コロナ以前から病院内のスタッフのコミュニケーションの活性化を図るために、コーチングを取り入れた病院の院長数名にWebでインタビューを行う機会があった。病院長自らが率先して、コーチングを学び、毎年コーチングができる主要幹部を少しずつ増やしていき、いまや大勢の管理職レベルの医療者が、日常の医療業務のなかにコーチングを取り入れて、病院内外で積極的にコミュニケーションを取り合っている。
もともとこれらの病院は「医師の働き方改革」も「新型コロナのパンデミック」を想定していたわけではなかった。しかし、いずれの病院長も、院内組織にコーチングを導入したことにより、「医師の働き方改革」にも「新型コロナのパンデミック」にも、スタッフが一丸となって取り組めていると回答している。
これまで、コーチング等を用いたコミュニケーションは一般企業には役立つかもしれないが、医療機関には関係ないと考える病院経営者が多かったと思われる。医療機関も一つの組織として、一般企業と同様に、組織内の他部署間との連携がコミュニケーションを積極的に取ることによって活発化すれば、緊急事態が生じたときにも有効であることが示された。
これらの医療機関に共通しているのは、理想と現実のギャップをいかに埋めていくか、そのマネジメント能力の高さだと思われる。いまや医療機関は高度な診療を行うだけではなく、こうしたマネジメント能力も問われるようになってきている。
そして、こうしたマネジメント能力を発揮するリーダーシップを、誰が取っていくかは、住民にとっては誰でもいいのである。むしろ、リーダーシップを持った人物が真剣に地域一両について考え、多くの人びとに役立つように、多くの関係者を巻き込んで、目の前の問題解決に取り組んでいくことが重要なのです。
それが「松本医療圏」「日本海ヘルスケアネット」では中核病院であったり、東京都、都立病院といった行政や病院であったり、もしくは地域の有力な企業経営者であってもいいのかもしれない。
新型コロナのパンデミックが生じて以来、日本人が最も苦手とする「前例のないことを決める」といったことを、連日迫られる状況が続いている。こうした環境において、思い切って前向きな「前例破り」を行えるマネジメント能力がある人物が先頭に立ち、改革を断行していってもらいたい。
ただ、こうした地域医療の問題を各医療機関の病院長だけに責任を押し付けてはいけない。そもそも「地域医療連携推進法人」は、都道府県医療審議会が意見具申を行い、都道府県地祇が認定・監督を行うとされている。そもそも行政が率先して行うべき大きな医療課題である。にもかかわらず、いまだに全国で20法人しか認定されていない。しかもそのうち10法人は令和になってから認定されている。少なくとも2015年から国として動いていた施策であり、コロナ以前にもっと積極的に行政がアクションを起こしていれば…、と思わざるをえない。
医療現場においても、ご紹介したような地域では、コロナ以前から地道な取り組みを行っていたからこそ、その地域で暮らす住民がその恩恵を受けることができる。まさに有事の時にこそ、その差は歴然と現れてくる。
コロナ禍においてはどうしてもネガティブな報道が多くなってしまうが、こういった日本の事例をもっと積極的に取り上げ、紹介し、報道してもらいたい。そして自分たちが住む地域では、どのように活性化させていけばいいのか、医療関係者だけではなく自治体にも大いに参考にしてもらいたい。
そして、今こそまさに、前例のない、しかし、最善と思われるコロナ対策を逃げずに打ち出していく。それが将来の「地域医療構想」へと発展させていく。そういった前向きなビジョンを示し、施策を打ち出していくことこそ、安易な罰則規定を設ける前に、国や行政には取り組んでいってもらいたい。
佐藤文彦
Basical Health産業医事務所 代表