赤字ホームは長く空室が放置されている
心ある介護職員が辞めていくのには、理由がある
なぜ、儲かっている事業者と儲かっていない事業者に分かれてしまうのでしょうか。介護事業にかかわらず、企業経営の収支を大きく左右するものは、売上とコストです。売上が多くあり、コストが少なければ企業は儲かります。当たり前の話です。介護保険事業者の場合、多くの儲かっている企業は、売上とコストの管理をしっかりと実践し、具体的な行動をとることができています。
一例を挙げれば、老人ホームの場合、入居率を強く意識し、居室に空気しか入っていなければ売上は立たないので、空室時間を限りなく0時間にするべく行動します。その上で、儲かっている事業者は人件費をぎりぎりまで抑えて対応しているのです。大げさな言い方をすると、この2点だけ強く意識さえすれば、介護保険制度は一定の利益が出るように制度設計されているのです。
逆に、儲かっていない老人ホームの多くは、空室管理ができておらず、長く空室を放置していても平気です。
ちなみに、介護職員の立場に立った場合、空室はよいことです。なぜなら、空室があるということはケアをしなければならない入居者数が少ないことであり、空室が多ければ多いほど仕事は楽になります。何をかくそう、私も現役の介護職員だったころ、空室が永久に埋まらないほうがよいと思っていました。
専門的な話になってしまいますが、入居者が体調不良で病院に入院してしまった場合も同じようなことが起きます。そのとき、老人ホーム側は入居者が現実的に老人ホームにいないので、当然、介護保険報酬の請求はできません。介護保険による売上はゼロです。だから、経営の上手な老人ホームは、入居者をなるべく病院に入院させない方向で努力をしています。病院に入院させない努力とは、入居者の体調管理をしっかりと行い、重症にならないようにすることです。
しかし、ここでも現場の介護職員は真逆の考え方に至っています。
「301号室の×さん、受診したら今日から入院だって」
「あらそう、夜勤が今日から少し楽になるね。しばらく入院していればいいのに」
「あなた、何、言っているの。不謹慎よ」
などという会話は、多くの老人ホームで交わされているはずです。