もし親を老人ホームに入居させるとして、まず第一歩として何を理解しておけばいいのでしょうか。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者が、親を老人ホームに入れようと思った時に「知っておきたい選び方、探し方」を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『親を老人ホームに入れようと思った時に読む本』(海竜社)から一部を抜粋、編集したものです。

老人ホームの経営で一番難しいのは職員配置

この売上の中から、不動産コストや給食費用などを支払い、さらに、介護職員に対する人件費を支払うことになります。粗々な収支をお話しすると、36万6千円は、おおむね老人ホームを維持するために、外部事業者へ支払うコストの合計になります。

 

小嶋勝利著『親を老人ホームに入れようと思った時に読む本』(海竜社)
小嶋勝利著『親を老人ホームに入れようと思った時に読む本』(海竜社)

そして、仮に定員60人の老人ホームだった場合、国が決めた配置基準どおりに職員を配置した場合、入居者一人当たりの介護職員負担額は10万円程度なので、前記した介護保険報酬20万円の半分である10万円が利益として残る計算になります。つまり、利益率は、約18%ということになります。もちろん、この利益が全額会社に残るわけではありません。ホームによっては借入金の返済や税金の支払いなどがここから差し引かれます。

しかし、現実は甘くはなく、この通りにはいきません。

 

規定以上の職員費用は、すべてホームが責任を持つ

 

老人ホームの経営で一番難しいのは職員配置です。多くの老人ホームでは、国が決めた職員配置数で老人ホームの運営はできていません。介護、看護職員のほかに、ホームによっては理学療法士や柔道整復師などの専門職が国の規定以上に配置されているのが実態です。当然ですが、何人多く配置しても、介護保険報酬は原則増えません。すべて、ホーム側の収益で負担することになります。

 

さらに、介護職の場合、1名の介護職員が退職するとその穴埋めに介護職員を補充するのですが、介護職員の性質上、1人のベテラン介護職員の穴を1人の新人介護職員では埋めることができないので、2人の介護職員を採用しなければならないケースがあります。

 

また、入居者の状態によっても、国が決めた配置基準で対応できないケースも多く、さらに、建物事情など老人ホームの環境によっても国が決めた配置基準で対応できないホームも多くあります。

 

たとえば、定員60人の老人ホームがあったとして、入居者全員が徘徊する要介護2の認知症入居者だった場合、国の決めた職員配置数である常勤職員20人では、とてもではありませんが対応することは不可能です。したがって、多くのホームでは、徘徊する認知症高齢者は、全入居者の〇%というように基準を決めています。

 

よく実務的なことで議論になるのは、空室は1室あるが、入居希望者が徘徊をする認知症高齢者であった場合に、現場から「今の職員数ではこれ以上徘徊する認知症高齢者の受け入れはできない」と言って入居を拒絶されるケースです。これは、ホームの安全な運営を考えると仕方がないことだと考えています。

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親を老人ホームに入れようと思った時に読む本

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