もし親を老人ホームに入居させるとして、まず第一歩として何を理解しておけばいいのでしょうか。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者が、親を老人ホームに入れようと思った時に「知っておきたい選び方、探し方」を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『親を老人ホームに入れようと思った時に読む本』(海竜社)から一部を抜粋、編集したものです。

マイルールやこだわりがある人は在宅で対応

したがって、どうしてもホーム内での情報入手能力には、個人差が出てきてしまいます。たまにしかホームに出勤しない非常勤職員であっても、意識の高い人は、勤務前に入居者情報を丹念に確認し、必要な情報は自身のメモ帳に書き写し、常にメモ帳の情報を繰り返し確認する作業を怠りません。さらに、経験が豊富で暗黙知のある介護職員は、入居者の言動を観察すると、この入居者はどうもマイルールがありそうだなとわかる、と言います。

 

しかし、そうでない職員はマイルールやこだわりを平気で無視してしまいます。つまり、知らないので無視した形になってしまうのです。このような事情は日常茶飯事です。私が老人ホームに向いていないと考える筆頭は、このような事態に陥ったときに、職員に対し、笑ってすますことができない人です。「しょうがないな、次回は気をつけてね」ということで毎回すますことができる人はいいのですが、「何度言ったらわかるの!」とヒステリックになってしまう人、または、ヒステリックにならざるをえないような、マイルールを持っている人は老人ホームには向いていません。

 

私は、現役の老人ホームの介護職員だったころ、このような入居者家族を多く見てきました。気持ちはわかります。何度も何度も注意を促し、リクエストしているので、「どうして」「何でできないの?」「わざとやっているの? 嫌がらせなの?」と思いたくなります。

 

けれども、介護職員側は、当然、わざとやっているわけではありません。単純に、リクエストが、その日に勤務している職員全員に伝わらないのです。毎日勤務している職員は当然知っています。しかし、たまにしか勤務に入らない職員の場合、自分なりの優先順位があるので、命に関わるような重大なことならいざ知らず、個人レベルのこだわりやマイルールなどはどうしても二の次になってしまいます。

 

そして、私はその光景、つまり、介護職員が約束したこだわりを忘れてしまい、それに対し猛烈にクレームを言っている入居者やその家族を見るたびに、「何らかの事情があり、人の手を借りなければ自分のことをできない人は、そのこと自体の執行を諦めるか、特別な費用を負担して自分専用の介護職員を雇う以外に解決策はない」と思っていました。残念ですが、これが現実です。意識の高い介護職員の場合は、忘れずにやってくれますが、そうでない介護職員の場合は、無視されてしまいます。

 

いくら、「うちのホームは入居者に寄り添う介護をします」などと言っていても、そう言っている人が責任を持って介護をしてくれているわけではありません。単に雇用契約に基づき雇われた介護職員がやっているのです。介護職員の意識次第で、どうにでもなってしまいます。そして、これをすべて老人ホーム側の介護職員の質や教育の問題だと片付けてしまうことは非現実的です。

 

老人ホームの場合は、職員も忙しいので「忘れてしまうこともあるね。仕方がないよ。次からは気をつけてね」と言って許せる気持ちがないと、ストレスがたまっていきます。

 

つまり、マイルールやこだわりがあり、それを確実にやってもらえないことに対し、過度なストレスが自分自身にかかってしまうような人は、老人ホームには向いていないということなります。このような人は、なるべく在宅で訪問介護サービスなどの在宅サービスを使って生活していくことを選択するべきだと思います。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

 

 

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