老人ホームに向いている入居者の条件とは
ある有名な落語家さんに、「入門したての芸歴の浅いお弟子さんの練習のために、老人ホームを開放するのでどうですか?」と後援会の役員の方を通して提案したことがあります。私が依頼した目的は、落語家の卵であっても素人よりは上手なはず、入居者に、落語の楽しさを利用して元気になってもらいたいというものでした。
しかし、返事はNOでした。有名な落語家曰く、適切な反応ができない聴き手の前で噺をしても、弟子の練習にはならないからというものでした。冷静に考えればその通りです。落語家は、聴き手が自分の話のどこの部分でどんな顔をするのかを見ながら、自分の噺の修正をしていくはずです。聴き手が認知症の高齢者ではこの部分がわかりません。つまり、人前で噺をする意味がないということだったのではないか、と思います。
老人ホームは世の中の縮図。向いている人と向いていない人がいる
正直に申し上げて、老人ホームの入居者には、老人ホームに向いている人と向いていない人がいます。
老人ホームに向いている人は、マイルールがなく、独自のこだわりがない人です。どのような老人ホームであっても、集団生活であることには変わりはありません。個人の都合よりも全体の都合が優先されてしまいます。ここが、単なるマンションと、ドミトリータイプで共用部分が充実している老人ホームとの違いです。
単なるマンションであれば、自室に籠り、鍵をかけてしまえば何日でも籠城することはできますが、老人ホームの場合、自室の中だけでは自分の生活は完了しません。多くの老人ホームでは、自室内で食事も作れないしお風呂もありません。したがって、食事や入浴は、共有部分に配置されている施設を利用することになります。そのため、どうしても人との関わりを避けて通ることはできません。
もし、あなたに生活上のこだわりやマイルールがあった場合、入居前にこのルールをホーム側に説明し、協力を要請することになります。毎朝5時に起きたら必ず30分間は散歩に行きたいとか、昼食は必ず自室で食べたいとか、今までの習慣で昼夜が逆転しているので、昼間は原則寝ているから起こさないようにしてほしいとか、入居前にこだわりやマイルールを説明し、ホーム側の協力を得なければなりません。多くの老人ホームでは、公序良俗に反することでなければ承諾してくれます。
しかし、問題はここからです。先に結論から言います。入居前に確認し、協力を得たことが、入居後、正しく履行されないというケースに出くわします。「何度言ったらわかるの!」と思わず声を荒げてしまうケースも散見されます。原因はホームの勤務体制にあります。多くのホームでは、介護職員らはシフトと呼ばれる勤務表に則して勤務をしています。中には、夜勤ばかりで日勤が少ない職員もいます。早番ばかりで遅番がほとんどない職員もいます。
さらに昨今は、人手不足により派遣スタッフや他施設からのヘルプ職員などが多いホームも珍しくありません。おまけに、週1回とか2回しか勤務しない非常勤職員も存在します。私の知っているあるホームでは、常勤職員は社会保険料の負担などでコストがかかるので、あえて非常勤職員で運営しています。