もし親を老人ホームに入居させるとして、まず第一歩として何を理解しておけばいいのでしょうか。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者が、親を老人ホームに入れようと思った時に「知っておきたい選び方、探し方」を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『親を老人ホームに入れようと思った時に読む本』(海竜社)から一部を抜粋、編集したものです。

看護師が強すぎて病院化している老人ホームが増加中

多くの老人ホームでは、看護師の配置が法で義務付けられており、数名の看護師資格のある看護職員が働いています。そして、中には仕事に厳しい看護師も存在し、医療知識のない介護職員に対し厳しく指導しているホームもあります。

 

小嶋勝利著『親を老人ホームに入れようと思った時に読む本』(海竜社)
小嶋勝利著『親を老人ホームに入れようと思った時に読む本』(海竜社)

介護職員が「Aさんが頭が痛いと言っています」と看護師に報告すると、間髪を入れずに「どのように痛いと言っているの?」「ずきずき痛いの? キリキリ痛いの?」「熱はあるの?」「バイタル(バイタルサインの略。脈拍数、呼吸数、血圧、体温など)は?」と、立て続けに質問が飛んできます。介護職員がその質問の回答に窮していると、烈火のごとく怒鳴り飛ばされるケースも多いようです。好意的に見れば「指導」ですが、「いじめ」とも解釈することができます。現に、多くの介護職員が看護師との連携がうまくいかず、職場を去っています。

 

多くの介護職員の気持ちを代弁するなら、「健康管理はお前らの仕事だろ、こっちは入居者の頭が痛いという訴えをキャッチし、健康管理のために存在している看護師に伝えたのだから、後はそっちの仕事ではないか」ということになるのではないでしょうか。

 

老人ホームの看護師の中には、自分の仕事を安楽に進めたいので、介護職員を統治下におこうとする人がいます。そういう人は、持ち前の医療知識や技術を利用して介護職員を脅かし、自分たちの都合よく介護職員を操っていく手法をとって介護職員を下請けとして利用しています。要は、自分たちがどれだけ高齢者の生活や健康管理について熟知しているかを介護職員にわからせ、介護職員が看護師の指示どおりに動くことを当たり前のこととして飼いならしていくのです。

 

多くの看護師が育った病院や診療所には、昔から看護助手という役割を持った職員がいたことが背景にあるのではないかと考えます。看護助手とは文字どおり看護師の助手なのですが、看護師にとっては介護職員も看護助手と同じという認識だと思います。

 

看護師が強すぎるホームは、病院と同じになる

 

このような老人ホームは、残念ですが、自宅と同じ環境ではなく、「病院」になってしまいます。老人ホームが病院と同じでよいのであれば、当たり前の話ですが、老人ホームという存在は必要ないということになってしまいます。

 

多くの場合、仕事の仕組みや手順のような業務マニュアル、とくにリスクマネジメント系の業務は、老人ホームよりも病院のほうがはるかに厳格に整備されているのが普通です。なぜなら、病院は多くの医薬品や機器を取り扱い、さらに医療行為をしている関係で、一つ間違えると、人が死ぬということが確実に起きることを、皆が知っているからです。

 

そのような環境下で育ってきた看護師から見ると、老人ホームのリスクマネジメントなど「まったくなっていない」とすることにも頷けます。そして、この不安を解消するために、病院では普通に導入しているルールを老人ホームで次々に採用していくと、その結果、病院になってしまうというわけです。

 

多くの入居者は、病院とは違うから老人ホームに入居を希望した、ということであったり、自宅と同じような自由度があることが決め手となり老人ホームに入居したはずです。しかし、皮肉にも病院化してしまっている老人ホームが増えつつあるようです。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

 

 

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