最小限の工事費で賃貸住宅を再生できる
1階の店舗にあった書棚はすべて撤去。床は何も手を加えずコンクリート土間の状態。約11畳もの広さがあれば、バイクをいじったり、DIYを楽しんだり、美術好きであれば作品を作るアトリエにすることもできる。ペット飼育もOKとした。
そんな思いを込めて、「趣味を思う存分楽しめる多目的スペース付き戸建て賃貸」として募集を開始。すると、募集1カ月で6件近くの問い合わせがあった。契約したのは、美大出身のサラリーマン男性。絵を描くのが趣味で、家賃を比較すると都心の単身者向けとほぼ同じだったことが決め手となった。彼は多目的スペースをアトリエとして使うことで絵に対する情熱が蘇り、デザイナーに転身し、引っ越したという。次に入居したのは爬虫類や両生類好きの夫婦。1階はまるでペットショップのように並んだ棚に水槽が陳列されている。「こんな部屋を今まで探していた」と話す。
もう一つも、また埼玉県郊外の長屋の一戸建て。横田省造さんは2戸連棟の長屋を購入した。こちらもまた前述の事例同様店舗付き住宅2SK(SKはサービスルーム兼キッチンの意味)。一戸は1階がスナックで2階が居室となっていた。通常はテナント募集をするだろうが、やはりこの不動産を紹介した前出の久保田社長は賃貸住宅としての募集を提案した。
1階には、スナックで使われていたソファーやテーブルがそのまま残っている。もちろんバーカウンターもある。2階は6畳が2間あり、2人でそれぞれの個室も確保できる。このままの状態で面白がって住む人がいるのではないかと「ルームシェア専用」として募集した。すると、20代男性2人が入居を決めた。この店舗スペースで、友達を呼んでたこ焼きパーティーを楽しんだりもしたが、何よりも毎晩2人で酒を酌み交わし、のんびり寛ぐことが目的だったという。
この2つの案件は地元の不動産会社ではなく、企画が得意な管理会社であるコンセプトエールが、それぞれの家主と共につくり上げた。
2つの事例を読んで、こんなにターゲットを絞り込んだ賃貸住宅は、簡単にはできないと思った人もいるだろう。確かに潜在的なニーズを掘り起こす必要がある企画かもしれない。だが、最大公約数のニーズを把握するだけでは差別化を図ることは難しい。
例えば、(1)で紹介した設備は、時代によって新しいモノが次々に登場する。新築にはその新しい設備が標準装備されているが、競争上、賃貸住宅の設備を常に新築と同じレベルにバージョンアップしようとすると、いくら資金があっても不足する。設備による差別化には限界があるのだ。
そうであれば、設備に頼らない差別化を図るという方法も考えた方がいい。2つの事例は、コンセプトを明確にしてターゲットを絞り込むことの有効性を教えてくれる。コンセプトを明確にして入居者ターゲットに、その住まいで実現できる生活スタイルをイメージしやすくしたことで、最小限の工事費で賃貸住宅として再生することができた。
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