元銀行マンは購入前に不動産の勉強に3年半使った
「最初の1棟」購入までに調べた物件は4万件
収益不動産という高いモノを買うときに、現地を見に行かずに買うという人がいる。何度も紹介している「かぼちゃの馬車」のオーナーには現地を見に行かなかった人は少なくない。素人だから行ってもわからないと思ったのだろうか。それとも、サブリースで家賃は保証されているので見に行く必要はないと思ったのだろうか。最近は、「グーグルマップ」で家にいながらにして現地のおおよその環境を知ることは可能だし、中古物件であれば、建物の外観、内観などの画像情報も増えている。時間と交通費を考えれば、現地に行かない方が効率的だと思う人もいるだろう。
しかし、よほどのベテラン家主ならいざ知らず、初めて収益不動産を購入しようという人は、現地に足を運ばなければ失敗の確率は確実に上がる。いくらインターネットでさまざまな情報が得られるといっても、限界があるのだ。
現地に行く意味は、購入したいと思う不動産を確認するためだけではない。周辺の環境、大都市圏であれば交通の利便性やライバル物件の状況、中古物件であれば建物の現況や管理状況など、賃貸経営に必要な情報は、現場を歩き回ることで初めて得られる。実際、現地の不動産会社を回れば、お目当ての不動産の現況や、エリアに住む人々の生活ぶりなどを知ることができる。現地を訪問することで、より多くの情報を集められ、購入後の経営のリスクを回避することができるのだ。
家主業は不動産を買ってからが経営のスタートとなる。特に初心者は、なかなか買えないと、いつの間にか「買うこと」自体が目的になり、不動産の見極めが甘くなってしまうので注意が必要だ。購入後に余計な手間がかからないように、購入する不動産選びはどこまでも慎重でなければいけない。
元銀行マンで「東京調布大家の会」を主宰する海野真也さんは、2010年に1棟目を購入しているが、勉強期間として購入前の3年半を費やした。その期間、買おうとして買えなかったわけではないが、「インターネットに氾濫していた収益不動産の情報に、自ら駄目出しをしていくことで、物件一つ一つを買うべきか否か、検証した」と言う。
立地条件や「積算評価」、利回りのバランスなどを考えながら、インターネットに出ている物件情報を一つ一つ検証した。
積算評価とは、不動産の価値を評価する計算方法の一つで、土地の価値と建物の価値をそれぞれ別に評価(現在価値による評価)し、それを合算するという評価方法だ。積算評価は、金融機関が「融資の可否」「融資額の上限」などを決定する重要な指標となる。
海野さんは、当時サラリーマンの仕事を終えて帰宅したら、1日3時間ほど物件情報を調べ続け、その数は実に合計4万件にもなったという。周辺地域の海抜や高低差、ハザードマップ掲載の有無をチェックした上で、エリアが絞れてくると、現地調査を実施。さらに街歩きを徹底して、飲食店等では引っ越すふりをして店員に土地柄や街の雰囲気を聞いて把握、最終的には福岡や広島など10都市以上の候補エリアで収益不動産を扱う不動産会社をピックアップして問い合わせをした。その結果、返答があったのが約100社、そのうち20社が真剣に対応してくれたという。
さらに5、6社に絞り込み、実際に店舗を訪問し、希望する物件についての詳細な情報を伝え、面談を重ねた。時には一緒に居酒屋に飲みに行き、関係を深めていったという。