新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

コロナ禍は世界同時多発で猛威を振るった結果

カテゴリー別に見てもビジネスホテルが20年4月で25.2%(前年同月78.9%)、シティホテルが11.8%(同82.8%)と目を覆うばかりの惨状でした。延べ宿泊者数で見ても1079万人泊と前年同月の23%まで落ち込んでいます。とりわけ外国人宿泊者数はわずか26万人泊に留まり、対前年同月比で2.5%の水準になりました。

 

牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)
牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)

ホテルなどの宿泊業界には、一般的に以下の5つのリスクがあると言われています。

 

(1)政治リスク
(2)戦争・テロリスク
(3)経済リスク
(4)天変地異リスク
(5)疫病リスク

 

政治リスクとは国同士の仲が険悪になり、両国の往来に影響を与えるリスクです。卑近な例では日本とお隣りの国、韓国の仲たがいです。実は宿泊業界は今回のコロナ禍で大きく成績を落としているように見えますが、実は18年夏くらいから、日韓関係が険悪になるにつれ、韓国人訪日客が減少していて、19年の訪日客数は558万人に留まり、対前年比で25%も減少しています。

 

戦争・テロリスクも、心得るべきリスクです。2001年のニューヨークでのテロに際しては、当時私は三井不動産の子会社の三井ガーデンホテルに勤務していましたが、同じ三井不動産傘下のハワイの超高級ホテル、ハレクラニホテルの稼働率が20%台にまで落ち込む姿を見聞しています。ハワイとニューヨークは直線距離で8000キロメートルも離れているのに、その影響の激しさに驚いたものです。

 

経済リスクは、リーマンショックのような大きな経済停滞が生じる結果、人々の移動が減少するリスク。天変地異は11年の東日本大震災のような大地震や火山の噴火、台風などの災害によるリスクを言います。

 

そして最後が疫病リスクです。実はこれまでも、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)が世界的に流行し、宿泊業界に影響を与えた例があります。

 

しかし、今回のコロナ禍は、世界同時多発で猛威を振るい、世界中の人々の足を止める事態に発展しました。そうした意味では他のリスクも含めて、宿泊業界にとってはまさに未曽有の出来事と言ってよいでしょう。

 

それでは、ポスト・コロナ時代に宿泊業界はどうなってしまうのでしょうか。まず注目しなければならないのが、19年で3188万人を超えていたインバウンド(訪日外国人客)需要がいつになったら戻ってくるのか、あるいは本当に戻ってくるのか、という問題です。

次ページ需要が消滅した宿泊業界はどこまで耐えられるか
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