人の働き方が変わると東京が変わる
東京都心部でのマンションはタワーマンションを中心に、最近では香港やシンガポールと見間違えるほどの林立ぶりです。どの建物も超高層で一見立派ではありますが、タワーマンションの建つ立地周辺は、元は港湾地区であったり、元工業地帯であったり、環境や居住性といった点から考えるとイマイチのものばかりです。
またハードとしては優れた建物であっても、たとえば外国人ビジネスマンが東京のタワーマンションを借りて、本国からメイドを呼び寄せても、メイド用の部屋がありません。またマンション内の各種表示でも外国語対応がなされていなかったり、管理形態においてもグローバル化は、いまだ緒に就いたばかりです。
公共施設でも都内に居住する人の目線に立っていません。公共の図書館の多くが夕方5時頃には閉館になる、役所のサービスも然り。マイナンバーカードはいっこうに普及せず、手続きが異なれば役所でたらいまわしにされてしまいます。
日本の都市が外国に比べてIT系で大いに劣っていることは、今回のコロナ禍でも証明されてしまいました。日本人の多くはいまだに日本はアジアの最先進国であると自負していますが、こうした分野において、日本は世界から周回遅れになっているのが現実です。そしてその日本の中心都市、東京こそが、生活するという視点から今後の立ち位置を明確にしていく必要があるのです。
私自身は物心ついてからずっと東京および神奈川で暮らし、働いています。不思議なことに転勤があたりまえのサラリーマンも20年間経験していますが、なぜか地方勤務も外国勤務もありませんでした。そうした東京育ちの私にとって東京の行く末はひじょうに気になります。経済一辺倒で、オフィスビルやタワーマンションばかりが建設される東京に、生活していく上での潤いはなく、日本経済の低迷が長引く中、今後は経済でもその地位を落としていくのではないかと懸念しています。
しかしいっぽうで、私はポスト・コロナの東京を楽観しています。というのも、人々の働き方が根本から変わることが、東京を良い方向に持っていくと確信しているからです。なぜなら、働く人々が通勤に多くの時間を割くことなく、ゆとりのある生活を楽しめるようになれば、おのずと人は遊ぶようになるからです。また自分の生活スタイルを発見し、そのスタイルに合わせた消費をし、楽しむようになるからです。
東京はそうした意味で今よりももっと文化や芸術の香りがする都になるのではないかと、想像しています。今までの会社ファースト、会社のためにすべてを捧げる生活から多くの人が解放され、増えた自由時間を、東京を楽しむことに費やすようになれば、東京はもっと深みのある都市に成長を遂げるはずです。