「手術が好き」ただそれだけだった…。新人外科医が見た、壮絶な医療現場のリアル。※勤務医・月村易人氏の小説『孤独な子ドクター』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、連載していきます。

ナゼ?「僕はうっとりした気持ちになった。」

1件目の手術が終わったら、次の手術までの休憩の間、隣の部屋で行われている手術を見学する。僕はできるだけ手術をたくさん見て目を慣らすようにしていた。しかし、知識、経験ともに未熟な僕は、最初から手術に入っていても、途中から何をしているのか分からなくなることが多かった。

 

当然、途中から見ても余計に分からないのだが、手術をたくさん見ることで何かきっかけを掴みたかった。それに僕は純粋に手術を見るのが好きだった。

 

助手が場をうまく展開し、スコピストが程よい距離感で対象物をカメラの真ん中に捉え、執刀医がきれいに切っていく。お腹の中はミルフィーユのように膜が折り重なっており、手術ではそれらの膜を意識する。

 

膜同士の間にうまく入れば、血管も神経もないあぶくの層が見えて、電気メスを当てるだけで簡単に剥がれていく。正しい層を見つけてきれいに剥がしていく様子は、見ていてとても気持ちが良かった。上の先生の手術を見るたびに(僕もいつかこんな手術がしたいな)と、うっとりした気持ちになった。

 

「次の手術の患者さんは2時頃に入室予定ですが、大丈夫ですか?」

 

手術室の看護師さんから電話がかかってくる。2件目の手術が始まると再び戦場に引き戻される。見るのと同じくらい手術に入るのも好きだったが、手術室は戦場である。

 

うっとりしている場合ではない。必死に食らいついて自分のやるべきことを見つけなければ生きていけない。

 

「ぼーっと見てないで手伝って」

「手を動かさないと手術に入っている意味がないよ」

 

手術中はとにかく「手を動かせ」と言われる。特に開腹手術では両手を使って場を展開しなければならないため、何をすべきか分かっていないことがより明白になる。

 

「左手が空いているよ。両手を使わないと」

「はい」

 

手を動かして手術に参加しなければいけない。手を動かさないといくら手術に入ってもうまくならない。

 

分かってはいてもなかなか手が動かない。手術中の緊迫した雰囲気の中で術野に手を出すのは勇気がいる。

 

ましてや僕はまだ何をすればいいのか分かっておらず全てが手探りである。助手の動き方は教科書にも載っていない。

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孤独な子ドクター

孤独な子ドクター

月村 易人

幻冬舎メディアコンサルティング

現役外科医が描く、医療奮闘記。 「手術が好き」ただそれだけだった…。山川悠は、研修期間を終えて東国病院に勤めはじめた1年目の外科医。不慣れな手術室で一人動けず立ち尽くしたり、患者さんに舐められないようコミュニ…

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