「手術が好き」ただそれだけだった…。新人外科医:山川が見た、壮絶な医療現場のリアル。※勤務医・月村易人氏の小説『孤独な子ドクター』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、連載していきます。

「勉強はしてきたんですが、何もできませんでした」

手術とは、1つ1つの工程が、流れるように次に繋がっていくものである。

 

しかし、僕の手術には流れがなかった。とにかく今やっていることに必死で、まるで先の見えない暗闇の中を懐中電灯1つで一歩ずつ進んでいくような手術だった。

 

「もうちょっと小さく掴んでみようか」

「はい。あれ?」

 

鉗子の使い方も覚束なく、操り人形にすらなりきれない。

 

「ゆっくりでいいから丁寧にいこう」

 

それでも岡島先生は僕を急かすことなく執刀させてくれた。

 

「次はどうする?」

「ここを切ろうと思います……、いや、やっぱりこっちからいったほうがいいかもしれません」

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

手が止まる。どこから切ればいいのだろう。

 

「左手でここを持ってごらん」

 

岡島先生がモニターを指差して持つ場所を教えてくれる。僕はその通りに左手を持ち直す。

 

「ほら、切る場所が分かっただろ?」

「はい」

 

岡島先生の言われた通りのところを持つだけで自然と切るラインが見えてくる。持つ場所1つで手術のしやすさが格段に違ってくることを実感する。

 

「次はこっちだ」

「そうそう」

 

少しずつペースが掴めてきた。

 

「よし、そろそろ代わろうか」

 

時計を見ると手術時間は1時間30分を過ぎていた。タイムアップだった。岡島先生と入れ替わりで助手の位置につく。ようやく地に足がついた感じがしてホッとする。僕と交代した岡島先生はいとも簡単に胆嚢を摘出し、手術を終えた。

 

「初執刀はどうだった?」

 

岡島先生はガウンを脱ぎながら聞いてきた。

 

「勉強はしてきたんですが、何もできませんでした」

 

僕は、俯きながら答えた。

次ページ初執刀は悔しい結果に終わった。
孤独な子ドクター

孤独な子ドクター

月村 易人

幻冬舎メディアコンサルティング

現役外科医が描く、医療奮闘記。 「手術が好き」ただそれだけだった…。山川悠は、研修期間を終えて東国病院に勤めはじめた1年目の外科医。不慣れな手術室で一人動けず立ち尽くしたり、患者さんに舐められないようコミュニ…

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