「手術が好き」ただそれだけだった…。新人外科医が見た、壮絶な医療現場のリアル。※勤務医・月村易人氏の小説『孤独な子ドクター』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、連載していきます。

手術が終わった頃には僕のメンタルはボロボロだった。

手術がしたくて外科医になったが、それ以前に手術に入る前の準備ができなければいけない。今の僕は、上の先生に「こいつに手術をさせてみよう」と思ってもらえるようなレベルではないのだ。

 

「コッヘル」

「電気メス」

「筋鈎(きんこう)」

「次、針糸もらうよ」

「ガーゼちょうだい」

「カメラポート」

 

ポートとは腹腔鏡手術で使う鉗子(かんし)や腹腔鏡カメラをお腹の中に入れて操作するための筒である。お臍を2cmほど切開し、腹腔鏡カメラ用のポートを入れる穴を確保する。ほとんど流れ作業で進んでいく。僕も手順を頭に入れようと必死でついていく。

 

「気腹お願いします」

 

まずはカメラポートに気腹チューブを繋いでお腹を膨らませて空間を作る。そして、気腹チューブを腹腔鏡カメラに換えて、お腹の中の様子を観察する。手術がしやすいようにポート配置を決めてポートを入れていく。これらのポートから鉗子を入れて、手術を行う。

 

術式にもよるが、基本的に腹腔鏡手術は執刀医、第一助手、スコピストの3人の外科医によって行われる。執刀医はいうまでもなく、手術をする医師である。第一助手は執刀医のさらに上級医が担当することが多く、手術をサポートし、時に先導する。一番下っ端はスコピスト、僕の担当だが、カメラ持ちだ。

 

「カメラをもう少し近づけて」

 

僕は言われるがままにカメラを動かす。しかし、言われた通りに動けばいいというものではない。

 

「もう少し右側を見せて」

 

執刀医が次にどこを見たいのかを予想しながらカメラを動かさなければいけない。

 

「天地が違う。もう少し反時計回りに回して」

 

天地とは上と下のことであるが、腹腔鏡カメラでは拡大して見ているため、上下が分からなくなることがよくある。そのため、特にこの言葉は術中に何度も言われる。手術中は延々と文句を言われ続ける。

 

手術の進行についていけず、カメラワークも下手な僕が悪いのだが、数時間の手術の間ひっきりなしに文句を言われ続けると、さすがに気が滅入る。いつも手術が終わった頃には僕のメンタルはボロボロだった。

次ページナゼ?「僕はうっとりした気持ちになった。」

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