「手術が好き」ただそれだけだった…。新人外科医:山川が見た、壮絶な医療現場のリアル。※勤務医・月村易人氏の小説『孤独な子ドクター』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、連載していきます。

初執刀。実は、同僚の東さんに先を越されていた。

東さんが初執刀をした時、僕は別の手術に入っていたため、見学することはできなかった。僕と東さんは一緒に手術に入ることがほとんどない。手術のメンバーは部長クラスのベテラン、中堅、若手の3人で構成されることが多く、僕と東さんは共に若手に分類されるためだ。

 

東さんは普段の手術中、どのように振る舞っているのだろうか。やはり普段と変わらず堂々としているのだろうか。それとも僕と一緒でオドオドしているのだろうか。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

そして、初執刀はどこまで自分でできたのだろうか、最後まで上の先生に取り上げられずに執刀できたのだろうか。怒られたりもしたのだろうか――。

 

東さんが初執刀をして以来、気を抜くとそんなことばかり考えていたが、なるべく気にしないことにした。僕にも近いうちに初執刀の機会が訪れる。まずは自分のことに集中しなければいけない。

 

腹腔鏡手術は録画してビデオに残せるため、後で繰り返し観て復習できる。僕は自分が参加した手術のビデオはなるべくその日のうちに観るようにしていた。

 

そして週末は次の週の術式のビデオを観て予習していた。近いうちに執刀する日がくる。そう思うと、ビデオ学習にも力が入った。

 

普段はビデオを2倍速で流してポイントとなるところだけを等倍速でじっくり観る。そうしないと、とても全ての手術を復習することはできない。

 

しかし、この週末は、過去の腹腔鏡下胆嚢摘出術の中で典型的なものを選んで、最初から最後まで等倍速で観た。途中、分からないところがあれば止めては戻してを何度も繰り返しながら細かく手順を確認した。いつチャンスがきてもいいように準備してきた。

 

「タイムアウトをお願いします」

次ページ「メスください」いよいよ、執刀が始まる。
孤独な子ドクター

孤独な子ドクター

月村 易人

幻冬舎メディアコンサルティング

現役外科医が描く、医療奮闘記。 「手術が好き」ただそれだけだった…。山川悠は、研修期間を終えて東国病院に勤めはじめた1年目の外科医。不慣れな手術室で一人動けず立ち尽くしたり、患者さんに舐められないようコミュニ…

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