
「手術が好き」ただそれだけだった…。新人外科医:山川が見た、壮絶な医療現場のリアル。※勤務医・月村易人氏の小説『孤独な子ドクター』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、連載していきます。
初執刀
東国(とうごく)病院に来て2ヶ月が経過した。僕は相変わらず、手術に回診に忙しい日々を過ごしている。
1日1食の生活スタイルには慣れたが、外科医としてはまだがむしゃらに目の前にある課題に取り組んでいるだけで、とても慣れたとはいえない。手術前、いつも通りに手洗いを済ませ、ガウンを着て、所定の位置につく。
これから行われるのは腹腔鏡手術だから僕はスコピストだ。執刀医と助手が患者さんの頭側に向かい合わせに立ち、僕は執刀医の足側に立つ。ドレーピングを行い、器具を並べていく。
「よし、じゃあ山川君はこっちに来て」
準備が整うと、本日の執刀医・岡島先生はそう言って一歩下がり、自分のいた場所を指し示した。
「え? あ、はい」
僕は戸惑いながらも岡島先生と入れ替わるように執刀医の位置に立つ。
(もしかして……)
「そう、今日は山川先生が執刀するんだよ」
岡島先生はまるで僕の心の声を拾ったかのように言った。
「はい」
ついにこの時がきた。