リアルに疑似体験─老人ホームの24時間
入居者や家族は、老人ホームの日常をぜひ理解してほしい。これから書くことが実態であり、これが真実です。ここでは、介護付き有料老人ホームの一日を、時間軸で説明していきたいと思います。提供されるサービスの手厚さと利用料金は、比例しています。料金によっては、ここで記載されていることをしてもらえないホーム、逆に、さらに手厚くしてもらえるホームがあるということに、留意してください。
もう一つの食事の話
「胃瘻(いろう)」という言葉を聞いたことはあるでしょうか? 今でこそ、少なくなりましたが、私が現役の介護職員だった頃は、どこのホームにも数名の胃瘻の入居者がいました。
胃瘻とは、何らかの理由で口から食事を摂取することができなくなった人が、お腹に穴を開けて、胃に直接管を通して栄養を入れることを言います。薬ではなく栄養を入れるので、多くの老人ホームでは、「食事」と定義しているはずです。
私のホームでも、食事と定義していました。胃瘻の入居者に対し、朝昼晩と3回に分け、約1時間ほどの時間をかけて、栄養のある液体を流し込みます。点滴のようなイメージですが、点滴より、管が太くお腹に入っていきます。もちろん、胃に流している栄養は、口から摂取することも可能です。
私が介護職員だった当時は、なかなか口から食事を上手く取ることができず、誤嚥性肺炎などを繰り返している入居者は、主治医から「そろそろ胃瘻にしたらどうか」と言われ、多くの家族が素直に胃瘻造設のオペに同意していました。介護職員も、食事介助などの行為を通して、「Aさんは、だんだん食べられなくなってきた。このままだと、胃瘻になるのも時間の問題だ」などと話していたものです。
最近では、多くの医師や介護職員、家族の意識が変わり、胃瘻を延命と位置づけ、無意味な延命を望まない入居者やその家族が増えてきています。当時と違い、今では「胃瘻をしてまでして生きていたくない」などという会話が増えてきています。人の生き死にについて、ここ数年で死生観が大きく変わってきたということだと思います。
昼食が終わると排泄介護へ。または中断していた入浴が始まります
食事が終わると、三々五々、入居者は居室へ帰っていきます。要介護状態の入居者の場合、食事の後は口腔ケアを行ない、排泄介護へという流れになります。そして、食事で中断されていた午後の入浴が再開されます。
多くのホームでは、入居者の食事が一段落した時点で、昼の申し送りが始まります。昼の申し送りは、業務に従事している職員だけで実施するのが普通です。申し送りの内容ですが、午前中の入居者の様子や、午後から夕方までのイベントの確認を行なって終了します。