仮説を立てるには知識と情報が必要だ
そんな松田さんは、サラリーマン時代、企業の研究所に勤務していた。上司からは、研究者とし て重要なことは「正確なデータを取る」「データから仮説を立て考察する」と教わった。このことが今の家主業に生かされているのだという。
「賃貸物件の表面利回りや実質利回りなどを調べる場合、まずはエクセルに落とし込んでみることが大事。感覚だけでやってしまうと、私のように1代目として始めた家主はバックボーンがないので、足をすくわれてしまうリスクがある」と松田さんは話す。初めて購入した不動産は2億3000万円でフルローンだった。だがシミュレーションし、納得して購入したから恐怖は全くなかったという。
実際、14年経った今でも安定的な運用ができているそうだ。
家主業に限った話ではないだろうが、事業である限り経営判断する上で多くの情報や知識は必要だ。その次に大事なのは、得たその情報や知識を活用することだ。活用する際には分析が必要になってくる。
例えば、賃貸住宅の空室率が高い、とある地域を想定しよう。よく調べてみると、この地域は単身者向けのワンルームが多いために空室率が高く、ファミリー向けの物件はほとんどない。地元の不動産会社の話によると、転勤者向けのファミリー物件が少なく、しかも戸建てだとすぐ決まるようだ。そうであれば、中古の戸建てを購入し、見た目をきれいにリノベーションすればすぐに決まるのではないか。家賃相場が8万円程度だから予算は600万円程度で表面利回りは15%くらいが妥当。リノベーション費用も考えると、築20年後半~30年を500万円前後で購入できれば悪くない――、というように、まず自身で仮説を立てる。
その仮説が見当違いでないかどうかを、家主仲間や付き合いのある不動産会社に話してみるとい うのは有効な手段だろう。ただし、家主仲間に相談するときは、その対象物件には基本的に興味を持ちそうもない人に相談した方が無難だ。その分析を良しとして、先に買われてしまう可能性も無きにしもあらずだからだ。
仮説を立てるには、知識と情報が必要だ。前述の仮説を立てるには、表面利回りはどの程度が目安で、中古物件には改修工事の予算がある程度必要であること、賃貸市場には表面的なニーズと潜在的なニーズがあるという知識が必要となる。情報としては、地域の空室率、空室率が高い理由、想定できる入居者ターゲット、家賃相場などだ。ベースとなる知識と生きた情報を総合して判断することで、リスクを最小限に抑えることができる。