新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

日本人は「やらされ」感に慣れてしまっている

また日本ではピアノが弾けるというと、たいていは幼少の頃にピアノ教室に通わされていたなど、どこかで先生に教わったという経歴を持つ人が大半ですが、この番組でピアノを弾く一般の市井人の中には、独学で覚えたという人がひじょうに多いことに気づかされます。そして弾く曲もショパンやバッハなどのクラシックからジャズ、フュージョン、ロック、ポップス、日本のアニメ映画の主題曲に至るまで、実に多彩なものです。

 

牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)
牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)

駅で出会った人とその場で仲良くなり、一緒に連弾する姿などを見ていると、人々の間に、いかに音楽が日常生活に溶け込んで存在しているかがわかります。そしてけっしてお金持ちでもない、中には先日失職しましたなどと明るく話をする中年親父なども登場しますが、普通の人々が音楽を愛していることには、文化の厚みを感じさせられます。

 

またこの番組でピアノを弾く人たちはごく素直に音楽を愛しているだけで、特に文化や芸術論を熱く語るような人たちではありません。それでも音楽がいかに自分を癒し、生活の一部になっているかを嬉しそうに語る人たちです。

 

そしてプロフィールについては、日本人のように「会社員」と名乗る人はほとんどなく、自らの職種で名乗る人ばかりです。彼らは会社のような組織に従属せずに、自分で名乗り、その内容を説明できる職業を持ち、その職に誇りを持って生活をしていることが画面を通じて伝わってきます。

 

日本では幼少期に無理やりピアノやバレエを習わされ、たいていが嫌になって投げ出しては親から𠮟られ、少し大きくなると今度は進学塾に連れていかれ、有名中学を受験するために毎日勉強ばかりさせられる、という「させられ」感満載の人生が普通です。

 

そして有名大企業に就職すると親は喜びますが、本人はすっかり「させられ」感に慣れてしまって、今度は自ら進んで仕事をしなければならないはずなのに、何をどうやるかの訓練を受けていないがために、少しの困難を前にすると、心が折れてしまうようになってしまいます。それもこれも、自分自身で自由に想像するゆとりある時間が、人生の最初から与えられていないことに原因があるような気がします。

 

ポスト・コロナ時代では、日本人のライフスタイルが大きく変わる中で、自分の職業を会社名ではなく職種で説明し、見よう見まねでできるようになったピアノを弾き、独学で始めた絵画を描く時代になっていくことでしょう。

 

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役

 

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