新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

多拠点居住時代は本当に到来するのか

ポスト・コロナ時代には、都心部の賃貸住宅は「よりどりみどり」になってきます。

 

牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)
牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)

理由は2つです。1つが今後大量に発生が予測される相続です。東京23区内には約202万人の高齢者がいます(2019年現在)。そのうち75歳以上の後期高齢者は106万人。なんと23区内では後期高齢者のほうが、74歳以下の高齢者よりも人口が多いのです。日本人の平均余命は男性81歳、女性87歳ですから、おおむね85歳くらいで多くの高齢者がお亡くなりになります。つまり今後は東京23区内では大量の相続が発生することは、生物学上も避けることができないのです。

 

相続が発生すれば、彼らの持つ家は相続人に引き継がれるわけですが、相続人のほとんどはすでに家を所有しているケースが多いものと想定されます。相続人が住むことがないとなれば、賃貸に拠出するか売却することになります。

 

いっぽうで東京都の予測によれば、2020年に959万人である23区の人口は、10年後の2030年で979万人と20万人、毎年平均で2万人しか増加しないとされています。つまり東京23区内の住宅においては今後、需給バランスが大きく崩れることは容易に予測ができるのです。

 

2つめが生産緑地問題です。92年に制定された生産緑地法で定められた営農30年を条件に農地として利用する宅地、いわゆる都市農地の固定資産税を農地並みに扱う規定が22年、多くの都市農地で満期を迎えます。

 

国は制度延長や農業生産法人による借上げでも同制度を適用するなどさまざまな激変緩和措置を施していますが、農家の多くが高齢化と後継者難にあえぐ中、かなりの都市農地が宅地化されるのではないかと懸念されています。この生産緑地、23区内だけでも425ヘクタールもあります。このうち練馬区が185ヘクタール、世田谷区91ヘクタール、杉並区でも34ヘクタールにも及びます。

 

大量相続と生産緑地からの離脱という2大要因から、東京23区内では今後多くの土地が住宅用として拠出されてきます。当然それらの土地は分譲マンションや戸建て住宅、賃貸マンションやアパートとして供給されてきます。このことは、買い手や借り手にとってはひじょうに有利な環境になるわけです。人口が伸びない中、たとえば賃貸マンションなどはエリアにもよるでしょうが、かなり「借りやすく」なることだけは間違いないでしょう。

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