新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

テレワークで仕事と真剣に向かい合うことに

東日本大震災の発生時、多くの会社は社員に家に戻るように命じました。しかしどの交通機関もストップし、家路は大混乱に陥りました。本来であれば、交通機関がまったく機能していない中で社員を放り出すのはリスクが大きいはずなのに、会社が命じれば、たとえ電車が動いていなくとも家路につくのがサラリーマンなのです。

 

牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)
牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)

そして今回のコロナ禍で会社から命じられたのは、「会社には来るな」という奇想天外な指示でした。当然、ほとんどの社員がこの命令に従いました。会社の命令は絶対であるからです。そのいっぽうでこの指示に大いに戸惑いを感じた社員がいたはずです。なぜなら会社に行くことが「仕事」だと思っていた社員が大勢いたからです。これまでは、会社に行くという行為そのものが仕事であり、生活だったのです。

 

会社に出かけないで仕事をするということは、言い換えるならば、まともに仕事と向き合うことを意味します。会社に行くとコーヒーを飲む、同僚ととりとめのない話をする、上司からぐちゃぐちゃ細かな指示を受ける、不意な電話や来客対応。自分が本当に集中して仕事をしている時間は意外と短いものです。

 

ところがそうしたムダが一切なく自分の目の前に鎮座するパソコンを前に、今日一日やるべきタスクだけが指示されます。そして一日みっちりと仕事をすると、人によっては妙な充実感を覚えたはずです。いっぽうでタスクと向かい合い、その分量の多さと期限の厳しさ、同僚や部下、会社の仲間とのコミュニケーションがうまく取れずに寂しい思いをした人もいたはずです。

 

実際に会社に行かないと、会社で費やしていた時間をすべて自分でコントロールしなければならなくなります。まず就業環境。会社にはデスクや椅子、会議室が整えられ、ビル内にはトイレや給湯室がある。自宅にもトイレや台所はあるので用は足せますが、自分が働くための机や椅子がない。仕方がないのでダイニングテーブルで仕事を始める。共働きの妻も同じテーブルでやるので、テーブルの上はお互いの仕事の資料が重なり合う。朝と晩にしかいないはずの飼い主が一日家にいるので、はしゃいでじゃれつく犬。実際、自宅で働いてみると意外なことに気づくものです。

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