新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

都心の巨大オフィスビルは空箱になるのか?

そうなれば、企業はどういった行動に走るでしょうか。

 

オフィスはヘッドクォーター部分だけにして、営業などその他の部門の多くはテレワークにする。それは在宅勤務だけではなく、コワーキング施設やサテライトオフィスなども活用して仕事をどんどん効率化する動きとなるでしょう。業務の指示や研修などもオンライン化が進むことで、立派な本社ビルという存在は次第に空疎なものになってくるでしょう。

 

さらに今回のコロナ禍は、企業のヘッドクォーター部分に対しても新たな課題を突きつけています。私の知り合いの会社では、今回のコロナ禍で、本社機能を全国3拠点に分散させることにしたそうです。

 

これまでは東京都心部のオフィスにすべての本社機能を集約させ、役員も同じフロアに集まって仕事をしていたのですが、今回のコロナのような感染症が今後も繰り返し発生することを想定すると、同じフロア、ましてや同じ部屋に全役員が密集している状態は、会社にとって「最大のリスク」であることを悟ったからだと言います。また、役員が別々の場所にいても、web会議などで役員同士の意思疎通が図れるということになれば、役員陣はより現場近くに配置して意思決定を早くすることもできるはずです。

 

情報通信機器の発達は営業手法にまで及んできそうです。営業は電話やメールですませるのではなく直接会ってする。営業職を経験したものであれば、誰もが上司から口酸っぱく教え込まれるものです。ところが、お互いに離れていても、web会議などでかなりの部分やり取りができることになれば、互いに行ったり来たりせずにすまそうという動きが出てきます。

 

そうなれば何も都心部に立派なオフィスを構えて社員に媚びを売ったり、取引先やお客様をお招きするための豪華な設えを用意したりする必要もなくなってきます。ましてや毎日、渋谷や六本木で遊びまわるわけでもないのですから、繁華街にある必要もなくなるわけです。

 

実際、GAFAと呼ばれるIT業界を代表する企業は、本社をニューヨークやロンドンなどの大都市に置いていません。

 

東京では今、オフィスの新築ラッシュを迎えています。いずれもがワンフロアの床面積が数百坪から1000坪を超えるような超大型のオフィスビルです。賃料も坪当たり4万円から5万円クラス。それらの多くの建物が同じ建物内にホテルや商業施設、美術館や映画館などを兼ね備えた複合ビルになっています。ところがこうした施設の多くは、このビルで働くほとんどの社員にとっては別に普段の会社生活で使わないものばかりです。超高層複合ビルの多くが、ステータスばかりを強調した見栄の塊のような存在なのです。

 

コロナ禍のような事態が今後も何度となく、日本を、あるいは世界を襲ってくることも予想され、人々の間には3密を避ける行動はトラウマのように残るでしょう。何も毎日オフィスに集まらなくても仕事ができると気づいた社員や管理者たちにとって、今後都心にある無用にでかいハコに価値を見出すことがあるでしょうか。

 

ひょっとするとこれらのオフィスビルは都会に佇む「巨大な空箱」になるのかもしれません。

 

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役

 

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