大企業への就職は村社会の中を上手に泳ぐこと
大企業に就職すると、たいてい親は喜んでくれます。ところがベンチャーに入るだの、独立起業するだの言おうものなら大変な心配をされます。本当は自身の能力をフルに活用して、大企業のサラリーマンになるよりもはるかにアグレッシブな生き方を選択しているはずなのに、親は心配する、反対するのが日本社会です。
では大企業に入るとはどういうことでしょうか。私自身も大企業サラリーマンを都合20年ほど経験しましたが、大企業で働くということはよくも悪しくも、会社という「村」に入村するということです。そしてその会社の寿命が尽きる前までに定年を迎え、恙なく退職金をもらい年金をいただく身になる。これが大企業ハッピー人生といえるものです。そのことを実現するために最も大切なのは、「村の掟」を守ることです。
一般的には、あまり冒険をしないほうが大企業では出世できると言われます。つまりどんなにつまらなく非合理な掟であってもこれをかたくなに守りながら、村の中ではなるべく仲良くする。上司にかわいがられ、無茶はけっしてしない。上司を上回る能力や才能があってもけっしてひけらかさない、そうやって村社会の中を上手に泳ぎ切ることが求められるのです。
最近では、大企業は良い人材を入れるために、オフィス環境の整備に走っています。新しいオフィスでは、社員の健康に配慮してバランスボールのような健康器具を配置する、充実した休憩スペースを設ける、社内にカフェやバーを用意する、中にはシャワールームまで備える会社まで出現しています。そこまでして社員のご機嫌をとるのもどうかと思いますが、要は大企業村の一員として会社にどっぷり浸かっていただくことを意図したものにしか見えません。
しかし、コロナ禍となり、テレワークという一大社会実験に参加してみて、多くの大企業で社員や管理者には「気づき」があったはずです。会社に通って同じフロアで濃厚接触を続けるリスクを、多くの社員が感じたはずです。またテレワークを通じて、会社という舞台に毎日登場しなくても仕事ができてしまう。通勤という行為がどれだけ無駄でリスクの高い時間であったか、認識を新たにする。上司に嫌味を言われずに仕事ができる。同僚や先輩後輩との無駄口に気を取られることもない。自分ができる仕事が何であるかを発見できる。会社と自分という関係あるいは距離にいろいろ「気づき」があったはずです。
管理者側はどうでしょうか。社員を村社会での村民、あるいは家族として囲ってきた会社から見て、村の外に出してもリモートコントロールすることで、実際の仕事のかなりの部分が回っているという新たな「気づき」。労働生産性が大幅に上がったという現実。ダメ社員とできる社員があからさまになったという驚き。