新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

すでに存在していたオフィスを持たない会社

今から4年ほど前のことです。知り合いの不動産会社の女性部長が私の事務所を訪ねてきました。この部長さんとは特にお仕事でご一緒した経験はないのですが、ある会合で知り合って以来、ときおり情報交換を行なう間柄。いつものように業界の話題やらでひととおり話に花が咲いた後、彼女は私に妙な話を始めました。

 

「牧野さん、この前私、とっても変な会社の社長さんとお会いしたんですよ」


「え? 変な会社って」

 

社員は全国にちらばり、組織もなく、会議はオンライン。(※写真はイメージです/PIXTA)
社員は全国にちらばり、組織もなく、会議はオンライン。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

訝しがる私に彼女が話してくれたのは、あるIT企業のことでした。その会社、まだ若い社長さんですが近年、業績を急速に伸ばしているとのこと。それはまことにけっこうなことですが、驚いたのはそのあと。その会社の所在地は港区内のあるマンションの一室。つまり社長の個人宅。ところが社員は30名もいる、と言います。

 

「ええっ、うそ。事務所はないの?」

 

通常30名もの社員を抱えれば少なくとも100坪くらいの事務所スペースが必要です。たとえば港区の六本木あたりで借りれば、普通のビルでも坪当たり2万5000円は下りません。月額の賃料負担は250万円にもなるはずです。ところが事務所は一切借りていない、と言います。

 

それどころか、30名の社員は全国の都道府県に散らばっていて、仕事はすべてオンライン上ですませているというではないですか。

 

「そんな会社があるんだ。でもそれじゃ社員を管理できないし、だいいち会社組織が成り立たないんじゃないの?」

 

そんな私の質問に、彼女はさらに仰天の話を付け加えました。

 

その会社の社員30名のうち、社長自身まだ一度も実際には会ったことがない社員が数名いること。いちおう取締役はいるものの、組織らしきものはなく、会合などはもっぱらオンライン上で行なわれているということ、などなど。つまり普通の会社のように、ナントカ部があって、ナントカ部長やその下に課長がいたりはしない、そんな会社だということでした。

 

 

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不動産激変 コロナが変えた日本社会

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牧野 知弘

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