ホーム内でも有名なおしどり夫婦の秘密
■エピソード3
夫婦で入居。奥さまがご主人を毎日虐待
Cさん夫婦は、ホーム内でも有名なおしどり夫婦です。一番大きな居室に夫婦で入居しています。ご主人は元官僚で94歳。現役時代は国会で省を代表して答弁をするような立場の人でした。奥さまは専業主婦ですが、お父様は元海軍将校でこれまた有名な人だったようです。この二人にとって、とても残念なことは、ご主人は重度のアルツハイマー型認知症、奥さまも認知症にかかっていました。一日のほとんどを、ご夫婦で仲良く過ごしているのですが、ある行動が職員を悩ましています。
「あのね。あそこに見える赤い屋根の家があるでしょ。あそこに、毎日うちの主人が通っているのよ」「あそこにいる女のところに主人が通っているの」と。職員を見つけると、奥さまは、そう言って窓の外に見える赤い屋根の家を指差します。
お風呂に行ってご主人の姿が見えないと「きっと、あの家に行っているのよ」と言って、自室に戻ってきます。ほどなくして、ご主人が職員と一緒に入浴から戻り、ラウンジでお茶を美味しそうに飲み始めます。入浴が終わったことを居室にいる奥さまに伝えると、奥さまもラウンジにお茶を飲みに出てくるのですが、Cさんの整容やバイタルチェックなどのために、女性の看護師や職員が関わっていると、てきめん、「あれは主人の女で」うんぬんかんぬんと始まってしまいます。しかし、Cさんが一人になると、今までのことが嘘のように、二人で何事もなかったように、仲が良さそうに一緒にお茶を。
この認知症夫婦は、毎日、ほぼ一緒に仲良く行動を共にしています。これは、家族からのリクエストでもあります。職員は、どちらかが、入浴やレクリエーションに参加するので一人になってしまう場合は必ず相手に説明し、いちおうの了解をさせてから行動に移るということをホーム内での約束事としています。
一見、穏やかなで知的なご夫婦。しかし、この二人には、まったく別の顔がありました。それは、奥さまによるご主人に対する虐待です。夜間や早朝、夕飯後に、奥さまのご主人に対する虐待は多く発生します。多くの場合、アルツハイマーで何もわからないご主人に対し、居室の真ん中に土下座をさせ、汚い言葉で奥さまが罵ります。さらに、時には、手や足で、時には、居室にある枕やタオルを使って、土下座をしているご主人を叩きまくるのです。