父が所有する土地に、兄と弟がそれぞれ家を構えて暮らしてしました。弟は父の家に暮らし、兄は自分で家を建てていましたが、父が亡くなると、兄の家にはローン残債があり、分筆されていない土地が抵当に入っていることが発覚。弟は土地を半分ほしいと申し出ましたが、兄は返済分を払えば担保を抜くと主張し…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
父親の土地は、兄の融資に「担保提供」されていた
今回の相談者は、40代の会社員、内山さんです。内山さんの父親が急死したため、内山さん、兄、姉2人の4人で財産を相続することになり、遺産分割の話し合いが始まりました。内山さんの母親は数年前に亡くなっています。
父親の主な財産は、現金のほか、土地と建物があります。形状が少し特殊で、2つの建物が1つの土地に並立して建築されており、いずれも賃貸併用住宅となっています。1棟は内山さんの家族と父親が同居していた自宅兼賃貸物件で、もう1棟は兄家族が暮らす自宅兼賃貸物件です。
内山さんが父親と同居する建物は父親名義なのですが、兄が住む建物は、兄が自分で銀行融資を受けて建てたものとなっています。
内山さんの希望は、内山さんと兄とで現在暮らしている不動産を半分ずつ相続し、姉2人には預金を分ける、というものでした。20代で他県へ嫁いで生活基盤を築き、それぞれ自宅も構えている姉たちは、内山さんの考えに賛同してくれました。しかし、肝心の兄の同意が得られません。
じつは、2棟の建物が建っている土地は分筆されておらず、1筆のままなのです。内山さん家族が暮らす父親名義の建物は、すでに建築費のローンを払い終えていますが、兄の住宅はまだ建築費のローンが残っているほか、融資を受ける際に父が土地を担保提供しており、抵当権も設定されています。
兄はそれを理由に、土地は全部自分が相続したいといい出しました。内山さんが土地を相続したいのなら、返済分を払ってくれたら担保を抜くという理屈です。話し合いは平行線となり、着地点が見えないまま申告期限が迫ってきました。
●相続人関係図
依頼者 :内山さん(会社員)、妻・子ども1人、長男と同じ敷地に居住
被相続人:父親(配偶者は数年前に死亡)
相続人 :長女・長男・次女・次男(相談者)
財産内訳:自宅土地、自宅兼アパート2棟、預貯金
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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