母に先立たれ気弱になった父と、父のもとに身を寄せている病弱な独身の長女。ふたりを守るために同居を決意した次女夫婦でしたが、新築した住宅に父親の権利を入れるよう長男がごり押しします。長女と父が相次いで亡くなり、相続が発生すると、自宅の土地建物の父の所有分を巡って長男と次女夫婦が対立。思い返せば、長男にはずっとある腹積もりがあったようで…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
年取った義父と病弱な義姉のため、同居を決意
今回の相談者は、50代会社員の松永さんです。妻の父親が亡くなり相続が発生しましたが、妻の兄とトラブルになり、途方に暮れているとのことです。
松永さんは、妻の父親と共有名義の家を所有しています。東横線沿線の、ファミリー層から人気が高い駅から歩いて数分の距離にある、好立地の物件です。土地は義父の名義ですが、3階建ての1階は義父、2階と3階は松永さんの区分所有で登記をしています。当然、費用もその割合で負担しています。
松永さんは結婚後、都内の別の地域にマンションを購入して暮らしていたため、義父母との同居は考えていませんでした。しかし、10年以上前に義母が亡くなったとき、義父のほうから心細いので一緒に暮らしてほしいという要望がありました。また、病弱な独身の義姉も義父と同居しており、その点はかねてより気がかりでした。
離れて暮らす義兄からも「自分は仕事の関係で同居がむずかしいため、ぜひ検討してほしい」と畳みかけられ、松永さんの家族が同居を決断したといういきさつがあります。
しかし松永さんは、筆者との打ち合わせの席で、悔しそうに胸の内を吐露しました。
「実際のところ、義兄はこのときから思惑があったようなのです。建築の計画が動き始めてから、義兄が強く主張して、建物にも義父の権利を登記することになりました」
●相続人関係図
依頼者 :松永さん(男性・50才代)・会社員、妻、子ども
被相続人 :妻の父親(配偶者は故人)
相続人 :長男、次女・松永さんの妻、(長女は故人)
財産の内容:自宅の土地・建物(建物の2/3は依頼者が所有)、預貯金
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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