母に先立たれ気弱になった父と、父のもとに身を寄せている病弱な独身の長女。ふたりを守るために同居を決意した次女夫婦でしたが、新築した住宅に父親の権利を入れるよう長男がごり押しします。長女と父が相次いで亡くなり、相続が発生すると、自宅の土地建物の父の所有分を巡って長男と次女夫婦が対立。思い返せば、長男にはずっとある腹積もりがあったようで…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

当初「建物は次女の夫名義」の計画だったが…

当初、義父との話し合いの段階では、建物をすべて松永さんの名義にする条件で進めていたそうです。しかし、途中から義兄が「父親の権利も確保したい。そのため、区分所有登記にしてもらいたい」とごり押しし、仕方なく同意したそうです。

 

 

自宅が完成して数年後、持病のあった義姉が亡くなりました。その後しばらくして義父が亡くなり、今回、義兄と松永さんの妻のふたりで遺産分割をすることになったのです。

 

義父が入院する際には、「預金はすべて自分が管理をする」といって義兄がキャッシュカードや通帳類を持ち出してしまい、松永さんの妻も松永さんも、義父の預貯金がどのようになっているのかわからず、その点も不信感があります。

 

松永さんにしてみれば、生活基盤だった自宅マンションからわざわざ引っ越し、妻の実家に同居して義父と義姉のふたりの面倒を見てきたのですから、土地と建物の区分所有は妻が相続し、残りは兄に譲るという感覚でいたのですが、義父が亡くなり開口一番、義兄から出た言葉は「財産は半分ずつにするから」でした。

遺言書がなく義兄にも相続権…「共有」もやむなしか

義父は遺言書を残しておらず、不動産には義兄の権利があります。しかし、生活しているのは松永さん家族ですから、不動産は松永さんの妻が相続し、兄には預貯金を払うのが妥当なところです。

 

筆者からは、もし義父の預貯金が少ない場合、義兄に代償金を払うことでハランスを取るようにアドバイスをしました。

 

「わかりました。遺言書がないなら仕方ないですよね。もし預貯金が不足しているなら、賃貸に出している自分のマンションを処分して、代償金に充てます」

 

と、松永さんは覚悟を決めました。

 

ところが義兄は、上記の提案をした松永さんに対し、とても歩み寄る雰囲気ではありません。義兄にすれば、駅近の価値がある土地だから相続するのは当然ということなのでしょうが、松永さん夫婦にとっては許しがたい思いがあるといいます。

 

「兄は大学進学で家を離れて以降、ほとんど寄りつかないばかりか、両親には孫の顔さえまともに見せなかったんです。姉や父が入院しても、兄の家族はだれひとりお見舞いにも来ませんでした。主人には私の親きょうだいの面倒を押し付けて知らん顔をして、相続のときだけ勝手なことをいって、本当に許せません!」

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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