新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

中古流通市場には不思議なことがいっぱい

日本の中古流通市場を見ていると、不思議なことがいっぱいあります。

 

私がまだ三井不動産に入社したばかりのころ、ある中古物件の仲介の仕事に携わりました。物件は神奈川県鎌倉市にある一軒家。建物は戦前に建てられたもののようですが、大変しっかりと造られた洋館で、重厚な佇まいです。歴史を十分に感じさせる素晴らしい建物に、現地を訪れた私も時計の針が戻ったようなノスタルジックな気分にさせられたものでした。

 

売主は数年前に亡くなり、相続人が持て余して売却をしたい、との申し出でした。

 

木造などの場合は築20年を超えるとほぼゼロという査定が行われる。
木造などの場合は築20年を超えるとほぼゼロという査定が行われる。

 

さて売り値の査定です。私はまだ入社後間もなかったので、不動産仲介は素人の域を出ていません。先輩に教わりながら価格を査定していきます。土地の形状、傾斜、境界の確認など土地周りの作業を行ないます。周辺の取引事例も綿密に調査します。鎌倉といってもエリアによってだいぶ土地の値段は違ってきます。この物件は超一等地ではありませんが駅からも近く、まずまずの立地です。この場所なら良い価格がつきそうです。

 

そして建物の調査をしようとした私に、先輩が声を掛けました。

 

「ああ、建物はいいや。どうせ価値なんかないから。古屋と表示すればそれでかまわないよ」

 

そうです。日本の不動産流通業界では建物の価値は木造などの場合は築20年を超えるとほぼゼロという査定が平気で行なわれるのです。つまり中古査定価格はほぼ土地代相当ということになるのです。

 

素人目にはまだ十分使用できるお洒落な洋館のお値段がゼロ。それどころか、

 

「解体費用分は土地の査定価格から引いておかないと売れないかもな」

 

先輩の声が響きます。なんだかその声に当時の私は大いなる違和感を覚えたものです。日本においては中古住宅の査定に当たっては、とにかく建物の価値を認めようとしないのです。

 

次ページ中古住宅に高い査定がつくことはない
不動産で知る日本のこれから

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