(※写真はイメージです/PIXTA)

人生の後半、「自分たちのためにお金を使いたい」と考える人は少なくありません。定年退職を迎え、まとまった退職金や貯金があれば、海外旅行や趣味に投資するのも一つの選択肢です。中でも“世界一周クルーズ”のような非日常の体験は、「死ぬまでに一度は行ってみたい」と憧れる人も多いでしょう。しかし、その後に待ち受ける“医療費”や“介護”“物価上昇”といった現実に、思わぬ形で生活が苦しくなるケースもあります。

「こんな豪華な旅、最初で最後だね」夢を叶えた2人

神奈川県在住の斉藤克彦さん(68歳・仮名)と妻の春江さん(65歳・仮名)は、定年後に「世界一周クルーズ」の旅へ出発しました。約3ヵ月、アジア・中東・ヨーロッパ・アメリカを巡る全行程。船内ではフルコースの食事やショー、寄港地観光がセットになっており、まさに「一生に一度の贅沢」だったといいます。

 

「現役時代は旅行どころじゃなかった。子どもにお金がかかってね。でも、住宅ローンも終わったし、老後資金も3,000万円ある。今しかないと思ったんです」(克彦さん)

 

費用は夫婦2人でおよそ950万円。年金収入に加えてある程度の貯金がある家庭にとっては「思い切れば手が届く範囲」だったともいえます。

 

ところが、クルーズから戻った半年後、夫婦の生活には思わぬ変化が訪れます。

 

「最初は何とかなっていましたが、処置や薬が増えると、毎月の医療費は5万円近くに。入退院を繰り返すうちに、タクシー代や食事代もかさんできて……」(春江さん)

 

加えて、自宅の老朽化により水回りの修繕、給湯器の交換、介護保険の住宅改修も必要に。さらに2024年から続く物価高騰が生活費を直撃しました。

 

「物価がこんなに上がるとは思っていなかった。光熱費もガス代も高くて…。年金月20万円ちょっとじゃ、すぐ赤字です」

 

斉藤夫妻が加入している公的年金は、合わせて月額21万5,000円ほど。決して少ない金額ではありません。しかし、住民税・健康保険料・医療費に加えて、固定資産税や管理費、さらには物価上昇による支出増加もあり、「手元に残るのはギリギリ」だといいます。

 

実際、金融広報中央委員会の『家計の金融行動に関する世論調査(2023年)』によれば、60代・二人以上世帯の平均金融資産は2,026万円ですが、中央値でみると700万円と大きく差があります。「ゆとりある老後」を送るには年金以外に月5万〜10万円の補填が必要とされており、3,000万円あっても“10〜15年で枯渇”する可能性が高いのです。

 

「世界一周は本当にいい思い出。でも、もしも今、何かあって介護が必要になったら…正直、不安しかないです」

 

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