「在宅復帰無理」で老人ホーム探しが始まる
現在の老人ホームの活用方法を見ていると、多くの方が次のような時に入居を考え始めます。「限界が来たら入居を検討」「在宅復帰ができないことが判明したら入居を検討」です。
前者は、在宅で生活をしている高齢者が、徐々に精神的肉体的な衰えを迎え、家族がその対応に限界を感じた時、などです。同居している場合は、具体的な介護負担による介護者の限界、別居している場合は、近隣住民などからの苦情を受けて、ということです。かつて相談に来たご家族の場合、別居している父親が何度も地域を徘徊し、そのたびに警察に保護され、近隣から「火の始末が心配だ」と言われてホーム入居を決断したそうです。
後者は、病院から退院日が確定した時点で、身体が衰えて入院前と同じような生活ができないと診断され、老人ホームを探し始めます。けがや病気の治療のために長期間入院を余儀なくされ、始終ベッド上で過ごしたため、足の筋肉が衰えて歩けなくなるとか、認知症状が出現してしまった場合、自宅で今まで通りの生活を送ることができないなどの理由からです。
注意しなければならないことは、多くの人は「困った状態」にならないと老人ホームを探し始めない、ということです。そして、困った状態、つまり追い込まれている状態なので、当然、十分な協議をする時間もなく、本人の意思とは無関係なところで話が進みます。世話を焼く人の都合が最優先されるホーム選びが始まるのです。私のところにも、「来週退院が決まって病院を出なければならない。早く老人ホームを探して」という家族からの訴えが、未だに多く来ています。これが現実なのです。
老人ホーム探しが、このような現状で行なわれている以上、当然、本人の意思などは無視されます。この状態から離脱するには、事前の準備が重要だということは誰にでも理解できます。しかし、多くの皆さんは、それを実践することができません。
以前、多くの老人ホームが「早めの引っ越し」というテーマで、入居希望者に対し早期の入居検討を促したことがあります。どうせ老人ホームに入居をするなら早めに検討し、早めに入居を決めたほうがよい、という促進策でした。しかし、現状は、多くのホームで空振りに終わったと記憶しています。つまり、老人ホームへ入ろうとする切迫性が身の周りに起きないと検討する気になれない、ということなのです。
ホーム入居にしても、相続問題にしても事前に関係者で協議を行ない、対策を考えていくことが重要なのです。「そんなことは言われなくてもわかっている」ことでもあります。わかってはいるけど実際には面倒なので実践できない、ということなのです。失敗しない老人ホーム選びは、この面倒で実践できないことを実践しなければならないから大変なのです。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役