いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

介護職員の能力を問う報酬体系になっていない

介護保険制度は、配置されている介護職員の配置人数に対し、厳しく規定しています。さらに、加算報酬という基準を満たしている場合にのみ支払われる介護保険報酬の中には、介護職員の有資格者数に応じて報酬額を区別する制度もあります。

 

しかしながら、圧倒的に現在の介護保険制度下では、人の能力を問うような報酬体制にはなっていません。百歩譲って、有資格者でなければ介護サービスを提供できないという考えから、介護職員の質を求めていると言われれば、「そうかな?」という気になりますが、私はそうは思っていません。

 

小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)
小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)

よい介護職員の定義が明確ではないので、そもそも「よい介護職員」の定義自体を決めることができないのです。有資格者の場合、資格を持っていることで証明できることは、介護に必要な知識や教養が備わっているということです。そして、一定の現場経験を有している、ということになります。

 

しかし、介護は医療と違い、「治す」という概念がありません。「治す」という概念があれば、エビデンスの積み上げによる治療方法が確立され、確立された治療方法がスタンダードとして普及し、それを学ぶことで多くの患者の命を救うということになります。だから、医療の世界では、知識や教養は必要であり、それを否定する者はいないわけです。

 

介護には、ごく一部にリハビリという、医療と共有している領域がありますが、介護のリハビリはどちらかと言うと、治すではなく、今の状態を維持していく、これ以上悪くならないように注意していくという考えが主流です。したがって、そこに求められることは、治すための知識ではなく、リハビリ行為を継続させるための人間関係の構築や、やる気にさせる「やる気スイッチ」の開発ということになります。大げさなことを言えば、人間力があるかないかということであり、きわめて情緒的な能力を求められるのが介護なのです。

 

私は、介護業界に長く身を置いていますが、先生と言われる人から介護に関する勉強を教えてもらった経験はありません。私の介護の先生は、入居者であり、その家族であり、多くの先輩、上司、同僚の介護職員です。これらの人たちとのかかわりを通じて、自身の介護に対する価値観や考え方は固まり、それを実践していく中で、本当に正しいことなのかどうかの理解が深まりました。

 

考えてみればわかります。病気になった場合、寝言を言っている医師に治療を任せることはないでしょう。しかし、介護はそうではないと思います。だから、人の品質を資格で判断することができないのが介護であり、その結果、一定の品質を確立するには、人員配置数で解決する以外に方法はない、ということになるのです。ここが介護の難しいところではないでしょうか。

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誰も書かなかった老人ホーム

誰も書かなかった老人ホーム

小嶋 勝利

祥伝社新書

老人ホームに入ったほうがいいのか? 入るとすればどのホームがいいのか? そもそも老人ホームは種類が多すぎてどういう区別なのかわからない。お金をかければかけただけのことはあるのか? 老人ホームに合う人と合わない人が…

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