介護保険制度の中で、できることには限界がある
有料老人ホームの事業者が受け取る費用総額は、宿泊施設の利用料と食費、これと介護保険報酬の2階建てになっています。宿泊施設の利用料と食費はホテルコストと言いますが、これは全額入居者の自己負担になります。
つまり、事業者側が自由に決めていいと言われている料金です。介護保険報酬は、入居者の自己負担とは別に、国からの報酬を受けることができます。ホテルコストは自由に決めることはできますが、入居者の負担可能額を考えた場合、家賃相当額に数万円の施設管理費用を上乗せするあたりが限界です。食費は、おおむね利益を出すことはできません。
介護保険報酬は、国が規定した報酬なので、一定の利益が出るように設計されています。なぜなら、介護保険事業の多くには、人員配置規定、つまり、この事業をするには介護職員を〇名配置することという強制規定があります。そして当然ですが、この配置規定を実現することができるような介護報酬額になっているのです。
考えなければならないことは、この介護保険報酬の中には何が入っているのかということです。私の解釈では、介護保険報酬の中に含まれている報酬は、入居者に対する直接処遇職員の人件費のみ、だと思います。しかし、有料老人ホームの場合、直接処遇職員とは別に、ホーム長などの管理者、事務作業を担当する事務員、送迎などを担当する送迎員らが配置されています。
さらに、問題なのは、国が決めた人員配置では十分な介護支援サービスができないので、多くの有料老人ホームでは人員を国の基準よりも多く配置しています。ここが有料老人ホームが利益を出せない理由であり、サービスの受け方、あり方の根本的な問題なのです。
厳格に介護保険事業者として有料老人ホームを運用する場合、国の基準内ですべてを賄い、できる範囲のことだけをすれば事業者の課題、つまり必要な利益の捻出は解決します。しかし、入居者やその家族の満足度は得られず、クレームが出て、事業者は身を切る形でサービスを提供しているのが現状です。
身体介助と生活支援介助の2つのカテゴリーに入らないものは「やってはならない」というのが、介護保険制度の建前です。もっと言うと、訪問介護の場合、訪問介護員が利用者の部屋の掃除をする仕事がありますが、窓は外側から掃除をしてはならないことになっています。さらに、浴室の掃除をする場合、〝すのこ〟の裏側は掃除をしてはいけないことになっています。
今まで介護保険法の改正が幾度となく実施されていますが、その多くは、介護現場での問題点が修正されてきています。たとえば、訪問介護の場合、生活支援業務の一環として行ないますが、しかしこの建前を正直に運用している事業者の評価として、サービスが悪い会社というレッテルを貼られてしまいます。