結婚当初から「同居はないが、権利だから財産はもらう」と明確に主張してきた長男夫婦。一方の長女は、近居の父親を気遣う控えめな人柄。最近になって長男から住宅購入資金の援助要請があり、遺産分割について考えた父親は、自分亡きあと長女がつらい思いをしないか不安を感じています。どのような対策があるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
実家に戻らない長男、近くに住む長女が支え
今回の相談者は80代の小林さんです。小林さんは地方公務員を定年まで勤め上げ、退職後の現在は、のんびりと隠居生活を送っています。昭和の貧しい時代を経験しているだけに、生活ぶりは堅実そのもの。結婚前も結婚後も倹約に努めて預貯金を増やし、23区内に広めの土地を購入してマイホームを建てています。十数年前に亡くなった妻との間には長女と長男があり、それぞれ家庭を築いています。
長女は20代後半で嫁ぎましたが、その後、実家の近くに暮らしたいとの相談があったので、歩いて数分の場所に小林さんが家を購入し、長女一家を住まわせることにしました。
長男は就職先の関係で、大学を卒業して以降、ずっと実家から離れて生活をしています。結婚するときにも実家に戻ってくるどころか、新婚早々「今後、父親とは同居をするつもりはない」と小林さんに直接伝えてきました。
長男だから戻ってくるのではと、淡い期待がありましたが、正直、突き放されてがっかりしました。そうこうするうちに妻が亡くなり、小林さんはひとり暮らしを余儀なくされましたが、長女が近くに住んでいることが幸いし、なんら不自由のない生活を送っています。
週末は長女夫婦が訪れて世話を焼いてくれるほか、平日でも体調が悪いときなども連絡すれば、すぐに駆けつけてくれます。長女の夫や孫たちとの関係も良好で、同居こそしていないものの、寂しさや不安を感じることはありません。
●相続人関係図
遺言作成者:小林泰一さん・80代
推定相続人:長女、長男
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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