結婚当初から「同居はないが、権利だから財産はもらう」と明確に主張してきた長男夫婦。一方の長女は、近居の父親を気遣う控えめな人柄。最近になって長男から住宅購入資金の援助要請があり、遺産分割について考えた父親は、自分亡きあと長女がつらい思いをしないか不安を感じています。どのような対策があるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
家を継がない長男に、不動産を相続させたくない
先日長男から、自宅を購入することになったので、資金援助してもらいたいとの申し出がありました。長男が結婚したのは30代後半になってからですが、子どもたちが成長して家が狭くなってきたので、広いところへ移りたいということでした。
とはいえ、相変わらず同居をするつもりはなく、実家に戻る選択肢はない様子です。そこで小林さんは、長男に相続財産の前渡しとして自宅の購入資金を贈与し、自宅と長女が住む家は、長女に相続させるとの気持ちが固まったのでした。
小林さんが心配しているのは、自分の相続のときに、長男が多くの財産を要求し、長女と揉めはしないかということでした。長男の妻ははっきり主張するタイプで、以前、「今後も同居はありえません。ですが、相続の時に財産は必ずもらいたいです、権利ですから」と、切り口上で念を押されたショックが忘れられません。小林さんは、自分亡き後の長女を守るためにどうするべきかと考え、筆者の事務所を訪れました。
筆者は状況を聞き、早速、公正証書遺言を作成してもらいました。長男には預金の一部と株券を、残りの全財産は長女へ相続させる、という内容のものです。遺言執行者も長女としました。このように記載しておけば、小林さんの自宅と長女一家が暮らす家の両方を長女に相続させられるため安心です。相続争いで、長女が家を追われる心配もなくなります。
長男に相続させる預金は、退職金や株の運用でコツコツと増やしてきたものでした。この先使う予定もないため、相続までに減る可能性は低いでしょう。小林さんはこれで二人の子どもが争わないですむとほっとしたのです。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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