結婚当初から「同居はないが、権利だから財産はもらう」と明確に主張してきた長男夫婦。一方の長女は、近居の父親を気遣う控えめな人柄。最近になって長男から住宅購入資金の援助要請があり、遺産分割について考えた父親は、自分亡きあと長女がつらい思いをしないか不安を感じています。どのような対策があるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
自己主張の激しい長男夫婦、おっとりした長女が心配
「長男には自宅の購入資金を贈与しましたが、あの調子だと、相続のときにはもっと多くを要求してくるかもしれません。長男もお嫁さんも強く自己主張をするタイプですから、そうなれば、おっとりした長女はとても太刀打ちできないと思います」
「まだ長男が結婚したばかりのとき、夫婦で実家に来たんです。健在だった妻が、〈家はどうするの?〉と話の流れで尋ねたら、〈同居は絶対にないよ〉〈でも、相続時には必ず半分ほしいですね、ここも、お姉さんが住んでいる家も、場所がいいから高値が付くと思います〉と、間髪を入れず返されて…。私も妻も絶句してしまいました。妻はしばらくふさぎ込んでしまったほどです」
小林さんは、長女にもいえず、長年胸にしまっていたであろう心の内を、筆者と筆者の会社のスタッフに淡々と語り、その後静かに頭を下げてお帰りになりました。
遺言がなければ、遺産分割は法定割合が基準に
小林さんのような事例は珍しいものではありません。懸念されていることに対策を立てるなら、やはり遺言書の作成が最も効果的です。贈与を相続財産の分与とする場合は、本人にそれを伝えておくほか、遺言書にも明記しておくことが大切です。遺言があれば、遺留分は法定割合の半分となります。もし遺言がなければ、遺産分割は法定割合が基準となります。
生前から「財産をもらいたい」との発言がある場合は、相続時になるとさらに要求がエスカレートすることもあります。そうなれば相続人間でのトラブルは必至です。その点から考えても、遺言書は絶対に必要なのです。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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