いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

辞めた介護職員が介護業界に留まるには

現在、介護業界では介護職員のキャリア段位制度の整備に入っていますが、これは、一つの会社で積み上げてきたキャリアを他の会社に転職した時にも通算して評価できるようにする制度です。つまり、介護1段の介護職員はどこの会社に行っても賃金は一定の金額からスタートする仕組み作りのことです。

 

話を少し深掘りしていきましょう。A社で積み上げてきた介護経験は、原則A社でしか通用しません。厳密に言うと、A社のホーム長に認められた介護は、C社のホーム長に認めてもらえるとは限らないということです。

 

介護職員はライバル会社への転職が難しいという実態がある。
介護職員はライバル会社への転職が難しいという実態がある。

 

業界では常識的な話ですが、大手のA社にいた介護職員は、ライバル企業であるB社には転職できません。B社がA社出身者は採用しないからです。中には、介護職として他の企業で経験を積んできた職員は一切受け入れない、という事業者も存在します。理由はいろいろありますが、要は介護の「流派」が違うからです。他の「流派」のやり方が染 し みついている介護職員を自社の「流派」に変更させることは、難しい作業です。であるとすれば、右も左もわからない素人に自社の「流派」を一から叩き込んだほうが自社の都合に合わせた介護職員を早く養成することができる、と判断しているのでしょう。

 

私は、国が進めようとしているキャリア段位制度について、考え方自体には理解を示すことができます。介護業界は慢性的な人手不足が問題になっており、それを解決する方法論はありません。その中で、一度業界の門を叩いてくれた介護職員を会社単位ではなく業界単位で囲い込み、逃がさないという制度は、時代の要請なのだと思います。

 

しかし実態は、事業者ごとに介護に関する考え方や方法論が違います。A社からB社に転職した場合など、その転職面接時に「うちはA社とは違うので、あなたのキャリアはうちでは役に立つかどうかはわかりませんよ」と、やられてしまいます。これではB社に転職しようとは誰も思いません。いくらキャリア段位という業界標準を作ったとしても、その標準を多くの企業が批准しなければ役には立ちません。

 

さらに言うと、万一多くの企業が批准するということになれば、個性のない金太郎飴のような事業所が多く出現するということになります。そうなると、サービスではなくなり、行政対応のような画一的な作業になってしまいます。どこの老人ホームでもまったく同じやり方で同じ方針で行なうということは、ホームごとの個性もなくなり、差別も区別もなくなるので、介護はどこもすべて同じということになります。つまり、介護保険制度が始まる前の措置の時代に先祖返りをする、ということになるのです。

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誰も書かなかった老人ホーム

誰も書かなかった老人ホーム

小嶋 勝利

祥伝社新書

老人ホームに入ったほうがいいのか? 入るとすればどのホームがいいのか? そもそも老人ホームは種類が多すぎてどういう区別なのかわからない。お金をかければかけただけのことはあるのか? 老人ホームに合う人と合わない人が…

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