介護支援事業はサービス業への大転換
ここで、現在の老人ホーム職員の状況を簡単に説明しておきましょう。
多くの老人ホームは、新規出店を検討する場合、入居者確保の心配ではなく、職員確保を心配します。私の関与している老人ホームの多くも、新規出店会議の一番の協議は「そこに出店して職員は集まるのか?」ということです。職員不足の傾向は、特に都心部の老人ホームで激しく、中には予定通りの職員が集まらないため、開設時期を遅らせるとか、まずは1階と2階から開設し、3階4階はクローズしたままというケースもあります。当然、この職員不足は経営を直撃するので、これが原因で倒産に追い込まれるホームも発生しています。
なぜ老人ホームは介護職員が辞めるのか?なぜ職員は集まらないのか?私は介護「流派」の中で自分のやりたい介護ができないジレンマが問題なのだと前に述べました。ここではそれに加えて、入居者や家族にも問題があるということを、申し上げておきたいと思います。誤解をしていただきたくないことは、結果として、入居者や家族にも問題があるということであり、そもそもの原因は、老人ホーム側の方針や対応の不備にある、というのは当然のことです。
2000年に介護保険制度が始まり、老人ホームといえば、特別養護老人ホームだけだったところに、民間事業者が老人ホーム事業へ参入しました。介護保険制度が整備され、入居者の介護費用に対する自己負担額が原則1割となり、高嶺の花だった老人ホームは、頑張れば手が届くところまで一気にハードルが下がりました。当然、入居ニーズは急増しました。
特に、業界を大きく変えた出来事は、介護支援事業はサービス業であるという、意識の大転換です。それまでの介護支援事業といえば、行政処分に基づき実施される行政の「措置」でした。平たく言えば「かわいそうだから面倒を見てあげよう」という施しの世界でした。
それが突然、サービス業だということになり、入居者はお客様なので失礼のないように、ということになりました。介護現場はかなり戸惑い、困惑してしまったというのが実情です。ホームによっては、サービス業といえば接遇やマナーが重要だと考え、言葉遣いや礼儀作法の勉強を教育研修カリキュラムの中に入れて、質を高める努力をしています。