新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

バブル崩壊後、工場跡地にタワマンが林立

バブル時代に地価が上がりすぎて一般国民には手が届かなくなった住宅を、都心部でも円滑に供給できるようにするというのが、本来の目的でした。

 

そこでデベロッパーが目をつけたのが、円高を嫌ってアジアに居を移した都心部、とりわけ湾岸エリアの工場跡地でした。多くの工場地帯で、容積率が200%程度に抑えられていたのが、軒並み400%から600%程度にまで大幅に引き上げられたというわけです。

 

牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)
牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)

デベロッパーは、湾岸部を中心に工場跡地を利用して、超高層マンションを次々と建設しました。容積率が倍になるということは、地価が変わらなければ、実質の地価はこれまでの半値ということになりますので、販売価格も低く抑えることができます。これまで手が届かなかったサラリーマン層でも都心で住宅が所有できる、画期的な改正といえました。

 

この規制緩和の効果は大きく、特に首都圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)の都心部において、急速な人口回帰現象が発生しました。

 

とりわけ、東京のど真ん中、中央区は1995年ころには16万人だった人口が、地価の高騰とともに郊外部へ人々が脱出し、97年には約7万人にまで落ち込んでいました。地元の小中学校では廃校が相次ぎ、もはや中央区は「人の住むところではない」とまでささやかれました。

 

しかし、この大都市法の改正以降、人口は戻り始め、現在では14万人にまで回復しています。今や中央区は若い家族も多く居住し、2016年における総人口に占める生産年齢人口の割合は71.5%と、全国一働き手の割合が高い自治体に「大変身」を遂げています。

 

今、日本の多くの自治体は、人口の減少と住民の高齢化による税収減で自治体内の社会インフラを維持、整備することが叶わなくなっています。そこで富山市や青森市などいくつかの自治体が打ち出しているのが、コンパクトシティという概念です。郊外に拡散してしまった住民を市内中心部に集めることで行政を効率化し、自治体財政を維持していこうという試みです。

 

しかし、首都圏では、住民のライフスタイルの変化と、その受け皿として湾岸エリアを中心とした工場地帯からの工場の撤退と、その有効活用としてのタワマン建設が見事に結びついて、「勝手に」コンパクト化していったといえるかもしれません。

 

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役

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